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  • 製造業がソフトウェアで収益化を図るための3つの条件

ライセンス管理の仕組みを作る【条件3】

前田 利幸(タレスDIS CPLジャパン ソフトウェアマネタイゼーション事業本部 ビジネス開発部 部長)
2021年6月23日

顧客の利用データを活用できる仕組みを

 さらに、顧客との継続的な関係性を構築する方法も必要になる。利用データの収集や、必要に応じた機能の追加、ソフトウェアの自動アップデート、エンドユーザーへのメッセージ配信などある。

 例えばデータとしては、顧客別/製品別/時間別といった様々な利用状況を収集する。課金請求に利用するだけでなく、顧客の特徴や収益機会を把握することがUX(User Experience:顧客体験)の向上につながる。

 【条件2】では、顧客との密な関係性を構築することの重要性を紹介した。ライセンス管理の仕組みを考える際には、ライセンス管理におけるUXの向上も考慮すべきである。

 EMSのカスタマーポータルにエンドユーザーがアクセスできるようにし、いつでも、どこでも、必要な情報やリソースを入手できる環境を提供することが考えられる。ポータルを経由しエンドユーザーは、使用権を持つソフトウェアをすぐにダウンロードできるだけでなく、いつでもライセンスをアクティベーションできたり、いつアクティベーションしライセンスがどれくらい残っているのかを把握したりが可能になる。

 さらに、ソフトウェアのアップデートやライセンスの返却、メンテナンス作業までも自動化できれば、顧客の業務効率と顧客満足度をさらに高めることにも貢献できる。

 ライセンシングは今後の製造業で存在感が増すIoT(Internet of Things:モノのインターネット)デバイス市場においても重要である。すでにネットワーク経由でハードウェアにライセンスを適用し、デバイスの機能や課金をソフトウェアで自由に制御できる世界が現実味を増している。

 これまでのように機能単位で異なるハードウェアを提供する形態から、単一のハードウェアのままソフトウェアの設定を変更することで異なる機能を提供する「ソフトウェアデファイン」型の製品が注目を集めている。

 ソフトウェアデファイン型では、製品のモデル数を削減でき、企画・製造・流通にかかるコストの低減につながる。スモールスタートによる早期の市場浸透や、アップグレードによる収益機会の増加、エンジニアによるメンテナンスの削減、製品の差異化が図れる。

知的財産保護で企業ブランド失墜を防ぐ

 ライセンシングを考える上で非常に重要な点が、不正利用を許さないための知的財産の保護対策を講じることである(図3)。

図3:ソフトウェアの知的財産の保護が重要

 ソフトウェアをサービスとして利用する中で頻繁に発生している問題に、契約違反となる製品複製や、リバースエンジニアリングによるノウハウや知的財産(IP)の盗用がある。リバースエンジニアリングで分析した製品を紹介する悪質なWebサイトは増加する一方で、ソフトウェアの不正流布などに悩む企業は少なくない。

 これらの違反行為によって、企業ブランドや製品価値の低下、信用力の失墜はもとより、市場に悪影響を与え産業の発展にブレーキをかけることにもなりかねない。

 不正行為への対策の1つがソフトウェアへの暗号化だ。暗号化により、リバースエンジニアリングやIP盗用の脅威から知的財産を保護し、コピーやソフトウェアの不正使用を予防する。ソースコードを難読化することもリバースエンジニア対策には有効だ。

 将来的なアップデートを見据え、すべてのバージョンでセキュリティを実現するほか、ソフトウェアが利用するデータを暗号化することが重要である。

 さらに利用期間の限定や流出阻止、利用の追跡も考えておく。例えば、海外の開発関連会社や委託会社に機密性の高いソフトウェアを提供したところ、開発メンバーが突然退職し、重要なソフトウェアがインストールされたままの開発用PCが返却されずに行方不明になるというトラブルがあり得る。開発用PCが紛失や盗難に遭うというトラブルが発生する可能性もある。

 こうしたトラブルを防ぐためには、クラウドでライセンスを管理し、退職者が出た場合などはライセンスを遠隔で無効化する体制を構築することが重要だ。利用状況を示すデータを基に利用拠点を把握し、盗難や紛失、意図しない場所での利用に対しては、リモートで制御するという対策が打てるようになる。

 コロナ禍により事業転換が迫られる一方、5G時代の幕開けによりハードウェアのIoT化が進み、製造業のサービス化への転換が、より一層加速することが期待される。

 「モノ売りからコト売り」への転換は、製品中心から顧客中心へとビジネスを転換することを意味し、顧客体験の向上による収益機会の拡大が可能になる。危機を好機と捉え、自社のビジネスを分析し、ソフトウェアのサービスビジネス実現に向けたビジネスモデル革新に踏み出せるかどうかが、次なる成長の鍵を握っている。

前田 利幸(まえだ・としゆき)

タレスDIS CPLジャパン ソフトウェアマネタイゼーション事業本部 ビジネス開発部 部長。ソフトウェアビジネスに取り組む企業に対し、マネタイズを実現するためのコンサルティングやトレーニング、ソリューション提案を実施。業界紙やWebメディアに寄稿するとともに、全国各地で収益化に関するセミナーや講演活動を展開している。IoT関連企業でシニアコンサルタントを経て現職。同志社大学大学院ビジネス研究科修了(MBA)