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  • 製造業がソフトウェアで収益化を図るための3つの条件

サービスのライセンス方式を検討する【条件2】

前田 利幸(タレスDIS CPLジャパン ソフトウェアマネタイゼーション事業本部 ビジネス開発部 部長)
2021年6月16日

ビジネスに新たな収益と事業成長をもたらすために、製造業において製品のソフトウェアをサービスとして提供する動きが進んでいる。【条件1】では、ソフトウェアが製造業にどのような価値をもたらし、ビジネスを成長させるかを紹介した。今回は【条件2】としてサービス化に不可欠なライセンス(使用許諾)方式について解説する。

 ビジネスモデルの主体を「ハードウェア売り切り」型から、「ソフトウェアのサービスビジネス」へと転換する際に検討すべき課題は、どのようなライセンス(使用許諾)方式でサービスを提供するのかという判断である。

 ライセンス方式は、「永久」「タイムベース」「ペイ・パー・ユース」「機能別」「サブスプリプション」「トライアル」など多岐にわたる。顧客のニーズに対して適切かつ柔軟性の高いサービスを提供できるようになる。売り切りからサブスクリプションへはスムーズな移行が可能だ。

急速に広がるサブスクリプション方式

 ライセンス方式の中で現在、最も導入が広がっているのは「サブスクリプション」方式である。サブスクリプションとは、顧客がサービスとして利用する機能の数量やデータ容量などの状況、あるいは期間に応じて一定額の利用料とした費用を支払う方式だ。サービスを提供する企業にとっては、安定した収益基盤が構築できるとともに、将来的な売り上げを容易に予測できる。

 サブスクリプション方式が中心的な収益モデルになりつつあるきっかけの1つは、米アドビや米マイクロソフトが主力のソフトウェア製品のビジネスを売り切り型からサブスクリプション方式へ切り替えて成功を収めたことだ。

 例えばアドビが、画像処理などのソフトウェアをサブスクリプション型サービスとして提供を開始したのは2012年のこと。当初こそ、売り上げ減少が危惧され株価が大幅に下落した。だが、その後にソフトウェアそのものの価値が認識され、ユーザー数を順調に伸ばしたことで株価は回復し、結果的に従来を上回る利益を生み出している。

 こうした成功例を受けて現在は、ソフトウェアに限らずあらゆるビジネスにおいて、サブスクリプション方式を導入する動きが拡大している。

顧客の成長に合わせたライセンス方式を提案する

 製造業が、ソフトウェアビジネスに舵を切る際に注意すべきは、顧客のビジネスを取り巻く状況を理解したうえで適切なライセンス方式を採用・提案することである。顧客の利用状況に合わせて、1つの方式、あるいは複数方式を組み合わせながら、どのように提案すべきかを十分に検討する必要がある。

 初期のステージでは、トライアルや成果報酬型の料金体系など、顧客が導入しやすいライセンス方式を提示することで、導入障壁を下げる(図1)。成長期に入ったものの利用頻度が高くない顧客には、使用量に連動する従量課金型のライセンス方式を提案する。ソフトウェアの効果を感じながらも予算が限られる顧客には、時間や回数に応じたライセンス方式を提案することで用途に応じた使用を促進できる。

図1:ソフトウェアビジネスに舵を切るための初期段階の取り組み

 従量課金制ではコストが高くなってしまうほどに利用頻度が高い場合は、利用期間に応じて一定量の利用を許容するサブスクリプション方式を提案する。顧客は、ソフトウェアをさらに活用するようになる。このように、ソフトウェアの提供する側にすれば、顧客がサブスクリプション方式の契約を結ぶまでに関係を継続して構築できれば安定した収入基盤を得られるようになる。

 売り切り型の場合、顧客が初回導入時の意思決定を下すまでには時間を要する。一旦製品を購入した後に新しい機能が必要になるかもしれないと考えると製品の再購入が必要になるだけに、購入タイミングを見極めようとするためだ。サブスクリプション方式として、購入後の機能追加やライセンスモデルの変更などが可能だとすれば、製品購入に向けた判断を早期に下せるようになるだろう。顧客の状況や市場動向の変化に合わせた意思決定も容易になる。