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  • 製造業がソフトウェアで収益化を図るための3つの条件

ソフトウェアの価値を正しく認識する【条件1】

前田 利幸(タレスDIS CPLジャパン ソフトウェアマネタイゼーション事業本部 ビジネス開発部 部長)
2021年6月9日

新型コロナの影響で、多くの企業が事業継続に加え、デジタルトランスフォーメーション(DX)によるビジネス変革という課題を突きつけられている。この大転換期に、世界の製造業が新たな収益基盤として活路を見いだそうとしているのがソフトウェアビジネスだ。ソフトウェアビジネスで製造業が成功するための第1の条件は、ソフトウェアが既存事業にどのような価値をもたらし、ビジネスをいかに変革させられるのかを正しく認識することである。

 コロナ禍により、製造業における「モノからコトへ」のビジネス転換が急加速している。ビジネスの中核をハードウェアの売り切り型から、ソフトウェアによるサービス型へと変化させようという動きだ。収益の機会を拡大することで収益基盤の安定化を図り、さらに事業継続と新たな成長へつなげることを狙う。

デジタルによる“破壊的な大波”が打ち寄せる

 デジタル技術の急速な発展で、2000年に『Fortune 500』に名を連ねていた企業の約20%が、その後消滅した。この“破壊的な大波(デジタルディスラプション)”が、製造業を生き残りに駆り立て、事業戦略をモノ売りからコト売りへの変革を迫っている。結果、製造業のソフトウェアに対する認識は大きく変化している。

 例えば、独フォルクスワーゲングループのヘルベルト・ディース最高経営責任者(CEO)は、2019年のフランクフルトモーターショーで、「クルマの差異化はソフトウェアによるところが大きくなる。我々はソフトウェア企業にならなければならない。ソフトウェアが今後の自動車におけるイノベーションの9割を占める」と発言し、世界中に波紋を広げた。

 実際、同グループはソフトウェアの専門組織「Car.Software」を設立し、2025年までに1万人規模の組織に拡張する見込みだ。これまでクルマは、ハードウェアである車両とソフトウェアは一体として開発されてきた。今後は、両者は完全に切り離され、別々に提供されることになるだろう。

 こうした転換は海外ではすでに急速に拡大しており、大手を含む多くの製造業がソフトウェアによるサービスビジネスによって収益を生み出している。

 医療機器メーカーであるオランダのフィリップスが、その1社。同社は医療機器に「サービス化」を実現するソフトウェアを搭載することで、総合ヘルスケアカンパニーへの転換を図り、新たな成長の道を歩み始めている。

 サービスビジネスの利益率は、従来のハードウェアの売り切り型ビジネスとは圧倒的に異なる。例えば、国内の医療機器メーカーの営業利益率が4%程度に留まっているのに対し、ソフトウェアなどのサービスビジネスに積極的な独シーメンスや米GEの医療機器部門の利益率は、4倍に相当する17%前後を達成している(図1)。この差が、世界の製造業がビジネスモデル革新を急ぐ理由の1つである。

図1:サービスビジネスの利益率の高さがビジネスモデルの変革を求める