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顧客が直接に触れるAIシステムとしてのボットのあり方【第7回】

中野 正人(ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部・本部長)
2022年3月3日

ボットの機能を最大化するには前準備が重要に

 コンタクトセンターでのCXを変える技術として期待が高まるボットの機能を最大限に引き出すには、どのような準備が必要になるのだろうか。現時点で現実的な解であるフローボットを中心にみてみたい。

 フローボットの実現に不可欠な機能は、(1)フレーズ(書き文字や自然言語)の理解・解釈、(2)インテント(顧客の意図)の理解、(3)アクションの起動の3つである。しかし、いずれの機能も、先行企業の取り組み例は、その実現が容易ではないことを示している。実装の困難さをエピソードを含めて説明する。

機能1:フレーズ(書き文字や自然言語)の理解・解釈

 ボットに日本語全体を方言やイントネーションまでを含めて理解させることは容易ではない。筆者は過去、NLP(Natural Language Processing:自然言語処理)モジュールのために、顧客に頼み込んで1万5000時間分の録音データを頂戴し、学習させた経験があるが、それでも教師データとしてはボリュームが全く足りなかった。

 さらに、NLPの基礎的な学習に加えて、フローボットとしてのインタフェースに仕立てるには、利用企業独自のボキャブラリー(語彙)を教え込む必要もある。製品名やサービス名、支店名など、その企業独自の単語の学習のほかに、言葉どうしを紐づけたり分類したりするアノテーションの作業が発生する。

機能2:インテント(顧客の意図)の理解

 インテント(顧客の意図)は、アノテーション作業の中で確定させる必要がある。物品を「買う」のか「返品」するのかで、それぞれに紐づくアクションは当然異なってくるし、それが顧客ごとに異なる単語で表現される場合、そのバリエーションもあらかじめ規定しておく必要がある。

 口語の会話であれば、「買う」が「いただく・もらう」、「返品」が「返す・いらない」などと表現に幅があり得ることは想像に難くない。ボットの導入では、これら表現の幅を初期段階にアノテーション作業を繰り返し、ボットが理解できるインテントに繰り込まなければならない。

 この作業が一番困難だと海外の同僚は指摘する。従来のコンタクトセンター基盤のように「『作って、しばらくすれば安定稼働期に入り手がかからなくなる』といったことが期待できない」との声も聞く。

機能3:アクションの起動

 この設定は、機能1、2に比べると、比較的容易である。インテントがはっきりした段階で、実行すべきアクションに必要なシステム(予約システムなど)と連携し、そのシステムにおけるトランザクション完遂に必要なデータを充足するまで顧客に聞けばよい。

 ここで問題なのは、フレーズを言い直しても機能1の段階でつまずき、「もう一度お願いします」といった確認をボットが重ねてしまうと、CXはぐんと下がるという点だ。弊社コンサルティング部門では、「2回確認できなかったら人間のエージェントに転送させる」ことを提唱している。3回目の言い直しでフラストレーションが溜まることは、ちょっと想像していただければ誰しも納得されるのではないだろうか。

様々な業種で人件費を劇的に削減

 上記のように、まだまだ課題は多いものの、ボットが劇的な人件費削減効果を生む例は多い(図2)。例えば、某銀行では、アノテーションとインテントの紐づけというボットトレーニングに専従要員を2人張り付けただけで、パスワードリセット等など簡単な問い合わせに割かれていた6人分のタスクをボットで代行できた。同様のケースは珍しくない。

図2:産業別にみたAIボットの導入シーン