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  • 新たな顧客接点を創出するコンタクトセンターの姿

「売り上げ向上/販売機会損失防止のためのAI」の提供価値(基盤用AIその3)【第6回】

中野 正人(ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部・本部長)
2022年1月21日

前回前々回と、コンタクトセンターのシステム基盤への搭載が進んでいるAI(人工知能)技術について、3つのカテゴリーの別に解説している。今回は第3のカテゴリーである「売り上げ向上/販売機会損失防止のためのAI」を取り上げる。

 営利企業の目標は言うまでもなく利益の追求である。すべての企業活動は利益の確保、そのための売り上げの向上のためにある。しかし、売り上げに直接関わる部門に対し、それをサポートする部門は「売り上げへの直接的な貢献」が測りにくく「コストセンター」などと呼ばれている。コンタクトセンターも、その1つだ。

 しかし近年は、コンタクトセンターの位置づけを見直す動きが国内外で起きている。その理由の1つは、UX(User Experience:顧客体験)の重要性の高まりだ。商品/サービスの購入前から購入後まで消費者と直接向き合うコンタクトセンターは、顧客体験の中でも大きな部分を占める。

 弊社が実施した調査『The Connected Customer Experience』によれば、消費者の65%は「企業の良さはカスタマーサービスで決まる」と回答した。商品/サービスの選択において顧客は、品質と同時に“体験”を重視するように変化してきている。

 もう1つは、新型コロナウイルスの感染拡大による対面での接客機会の減少である。コンタクトセンターは今や、顧客と直接コミュニケーションができる数少ないチャネルだ。これまでの販売チャネルの代替としての役割が急激に高まっている。

 そこでは、従来の「顧客からのコンタクトを待つ」受け身の姿勢から、売り上げや利益の向上に貢献する部門へのトランスフォーメーションが求められる。

 こうした販売チャネルとしての期待に応えるためのAI(人工知能)システムが、コンタクトセンター向けに提供され始めている。ただし、コンタクトセンター単体で利用するものではなく、オンラインの販売チャネルであるWeb/EC(電子商取引)サイトのアクセス解析やMA(マーケティングオートメーション)のためのツールと共に利用する。

購入を“もう一押し”する最良のタイミングを見つける

 コンタクトセンターが売り上げ拡大に貢献できる役割の1つが、顧客が「買う気分」になっているタイミングに“もう一押し”することだ。顧客がWebサイトを訪れている際に、リアルタイムで有人チャットや電話によるオファリング(提案)ができれば、その効果は大きい(図1、関連動画)。

図1:顧客が「買う気分」になっているタイミングに“もう一押し”した例。ここでは、ディスカウントクーポンを追加提案している

 そのための“最良の瞬間”をAI技術で特定する。具体的には、Webサイト訪問者の行動をリアルタイムに解析する。Webサイトのアクセス解析は既に十分に活用され、来訪者の動線は管理されている。しかし、その利用法は、Webサイトの構造改善や、次回プロモーションへの反映が中心だ。Webサイトの訪問中に「買う気」になっているかどうかをリアルタイムに見つけ働きかけるまでには至っていないのではないだろうか。

 そこでアクセス解析ツールの結果を人間が判断している部分をAIシステムで自動化を図ることでリアルタイムな対応を可能にする。この時、あらゆる解析を自動化するのではなく、そのWebサイトにおける“勝ち筋”の把握を対象にする。

 すなわち、商品/サービスを購入した顧客のWeb上での動線を解析し、購入に至るまでの“勝ち筋”を把握する。そのうえで、Webサイト来訪者の動きをリアルタイムに解析し、その“勝ち筋”同様の動きをしている来訪者を特定し、メールやチャット、あるいは電話によりリアルタイムに有人対応する。

 Webマーケティングをはじめ広告業界における顧客対応は、マスをターゲットにした発想がスタート点である。例えば、プロモーションの管理は「M1(20〜34歳の男性)」や「F2(35〜49歳の女性)」といった性別や年齢、あるいは居住地域、年収や学歴などのセグメント単位であり、きめ細かさを高めるという意味では限界がある。

 近年ではOne to Oneマーケティングという方向性が打ち出されてはいるもののコンタクトセンターで実施しているほどの粒度には達していない。従来のデジタルマーケティングではWebサイト訪問後のリターゲティングが中心だった。コンタクトセンターからのリアルタイムな対応は、Webマーケティングだけでは対応し切れない販売機会を最大限に活かせることになる。