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  • 法律家が答える電子契約を活用するための3つのポイント

電子契約、電子サイン、デジタル署名の違いを理解する【ポイント1】

浅井 孝夫(アドビ 法務・政府渉外本部 本部長)
2021年8月6日

セキュリティをさらに高めたデジタル署名

 電子サインに対し、「デジタル署名(従来は「電子署名」と呼ばれていた)」があります。デジタル署名は、電子サインの安全性をさらに高めた仕組みです(図2)。

図2:電子サイン(証跡保管型)とデジタル署名(電子署名)の位置付け

 電子サインにおける本人確認は、メールアドレスを基にしています。これに対しデジタル署名(電子署名)では、本人が確認したうえで、認証局が発行した「電子証明書」を使って、本人確認と改ざん検知を行います。

 認証局とは、暗号化に利用する公開鍵に対する電子証明書を発行する機関/機能のことです。その証明書は、公開鍵と、その持ち主が信頼できることを証明します。そのため認証局は、公開鍵証明書の発行申請者の身分を確認する義務を負っています。公開鍵は、以下で説明するように、電子文書の改ざん防止に使用します。

 一般的な電子サインが認印のようなものだとすれば、認証局が発行する電子証明書を使ったデジタル署名(電子署名)は印鑑登録が必要な実印のようなものだと言えるでしょう。

 デジタル署名(電子署名)では、電子文書に電子証明書を使って署名することで、契約者本人が同意したことを保証します。このとき、電子文書データを計算しユニークな値(ハッシュ値)を算出します。このハッシュ値は、署名者の秘密鍵を使って暗号化し、電子文書と共に送ります。

 電子文書の受領者は、暗号化されたハッシュ値を電子証明書に含まれる署名者の公開鍵で復号すると同時に、電子文書データから改めてハッシュ値を計算します。複合したハッシュ値と再計算したハッシュ値が同じであれば、電子文書データは変更されていません。電子文書が改ざんされていると、再計算したハッシュ値が異なるため、改ざんを検知できることになります。

 デジタル署名(電子署名)は現在、国税電子申告・納税システム「e-Tax」でも利用されています。e-Taxで利用できる電子証明書は条件が定められています。(1)電子署名法の特定認証業務の認定を受けていること、(2)政府認証基盤のブリッジ認証局と相互認証している認証局が発行したもののうちe-Taxで利用できると確認されたものです。

契約における法的な有効性

 様々な工夫がなされている電子契約ですが、企業間取引への導入検討時に最も多い疑問が「電子契約は、紙の契約書と同じく、法的に有効なのか?」という点でしょう。

 意外に思われるかもしれませんが、日本の法律では契約形式については、法的に定められているわけではありません。口約束であっても、お互いの同意があれば法的に有効とされています。

 しかし、口約束の場合はお互いの記憶を頼りにした契約ですから、問題が発生した時に双方の主張が異なると、「どちらの言い分が正しいか」から議論を始めることになります。こうした事態を避けるために一般的には、双方で合意した内容を記録して互いに保存しているのです。

 つまり、契約方式が紙であっても電子データであっても、あるいは口約束であっても、双方が契約内容に合意しているのであれば、契約内容の法的な有効性には変わりありません。

 なお、電子署名法(正しくは「電子署名及び認証業務に関する法律」)には、電子文書の成立の真正の推定規定(第3条)があるものの、民事上の契約行為を電子署名で行わなければならないという規定はありません。ですので、メールのやり取りで互いに合意した内容も当事者間で成立した契約になり得ます。

 とはいえ、メールのやり取りだけでは合意内容が散逸してしまい、最終的な合意事項が分からなくなる場合もあります。1つの電子文書にまとめ、電子契約として締結しておくのが得策でしょう。

 次回は電子契約を利用するにあたって押さえておきたい法的な知識についてさらに詳しく解説します。

浅井 孝夫(あさい・たかお)

アドビ 法務・政府渉外本部 本部長。2000年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程卒業。2001年弁護士登録後、アンダーソン・毛利・友常法律事務所勤務。2007年韓国最大手の金・張法律事務所に勤務。2008年米カリフォルニア州立大学バークレー校ロースクール(LL.M)卒業後、米ニューヨーク州にて弁護士登録。2009年北京滞在を経て法律事務所に復帰。2011年アドビ システムズ(現アドビ)に入社。