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  • 法律家が答える電子契約を活用するための3つのポイント

電子契約導入に関連する法律を押さえる【ポイント2】

浅井 孝夫(アドビ 法務・政府渉外本部 本部長)
2021年9月2日

企業が電子契約を導入する場合は、電子契約に関連する法規制について確認しておく必要があります。今回は、電子契約に関連する法律の概要と注意点についてまとめます。導入前に、法務関連の部署、担当者と相談し、懸念点はないか、懸念点を解消する方法はあるかを検討してください。

 電子契約を導入するにあたり、押さえておくべき法律には、次のようなものがあります。

電子署名及び認証業務に関する法律(以下、電子署名法、2001年4月施行)

電磁的記録の真正な成立の推定、特定認証業務に関する認定の制度その他必要な事項を定めたもの

電子帳簿保存法(1998年7月施行)

税務に関する法律。保存しておくべき帳簿・税務書類に関してのルールを定めたもの

書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(以下、IT書面一括法、2001年4月施行)

書面の交付が義務付けられている契約などに対して、電子メール、FAX、電子ファイルなどによる交付も可能とする法律

e-文書法(2005年4月施行)

 紙での保存が義務付けられている法定保存文書について、電子データを保存することを認めた法律

 以下で、主要な法律のポイントを解説します。

 なお政府としては、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の観点から電子契約を推進しており、法令も対象範囲を拡大したり、制限を緩和したりする形で年々進化しています。制限が厳しくなる方向での改正はあまりありませんが、導入検討時には、最新情報を必ず確認してください。

電子署名の基本を定める電子署名法

 電子署名法の要点は次の2点です。

(1)電磁的記録の真正な成立の推定:電子署名(ここでは、電子サインとデジタル署名の両概念を含む)の付された電磁的記録が手書きの署名や押印の付された文書と同等に通用する法的基盤の確立(真正に成立したとの推定がなされる)

(2)任意的な認定認証制度:電子署名が本人のものであることを確認する認証業務に関し、任意的な認定制度の導入

 電子署名法2条では、次の要件が満たされる場合、電子署名が有効であるとしています。

・署名した人の本人性の確認
・電子ファイルの改ざん有無を確認できること

 続く3条には次の定めがあります。

・本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

 電子署名法の解釈において従来は2つの解釈がありました。「2条、3条とも本人による電子証明書が必要であることを示す」という狭義の考え方と、「2条で広く定義し、3条で本人の電子証明書を使った電子署名を定義している」ととらえる考え方です。

 前者の考えでは、電子契約のサービス事業者が提供する電子証明書の場合、契約する当事者は電子文書に署名操作を行ないますが、「その操作を受けてサービス事業者がシステム的にサービス事業者の電子証明書を付与するため、本人性が認められない」という見解がありました。こうした法的な不安定さが、企業における電子契約導入の足かせになっているとされてきました。

 これに対し2020年7月、法務省、総務省、経済産業省が共同で、電子署名法2条の解釈について整理した文書を公開しました。その中で、電子契約サービス事業者が提供する電子証明書を用いた電子署名であっても、電子署名法2条の「電子署名」に該当し得ることを明確にしました。これにより、慎重だった企業も安心して電子契約の導入を推進できるようになったのです。

 さらに2020年9月には、法務省、総務省、経産省が共同で、電子署名法3条の解釈について整理した文書も公開しました。そこでは、2要素認証(例えば、メールアドレスおよびパスワードの入力に加えて、携帯電話にSMS送信したワンタイム・パスワードも入力させる仕組み)を導入することで電子文書の成立の真正が推定される場合があるという新しい考え方が示されました。