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  • 法律家が答える電子契約を活用するための3つのポイント

電子契約、電子サイン、デジタル署名の違いを理解する【ポイント1】

浅井 孝夫(アドビ 法務・政府渉外本部 本部長)
2021年8月6日

電子契約や電子署名などは決して最新の仕組みではありません。これまでも法的な解釈や制度の整備などを伴い利用されてきました。それが最近は、テレワークなどの広がりを背景に、導入機運がこれまで以上に高まっています。今回は、電子契約の理解を深めるために、電子契約、電子サイン、電子署名の違いと、その法的有効性について解説します。

 「契約」といえば、紙の契約書に契約者の双方が押印またはサインをして取り交わすことをイメージする読者が多いのではないでしょうか。これは最もオーソドックスな契約方式であり、個人の契約はもちろん、企業間取引でも広く使われています。

「電子契約」は電子データを使った電子的な契約

 一方で「電子契約」は、契約内容を電子データで記録して双方が合意し取り交わすことです。すでに我々の日常生活の様々な場面で利用されています。その代表がオンラインショッピングです。販売側と購入側は、双方の契約内容を電子データとして交換しています。

 他にも、オンラインの予約サービス、オンラインバンキング、オンデマンド配信のサブスクリプションサービスなども電子契約の一種に当たります。これらの例を考えれば、すでに電子契約を利用しているという方が、ほとんどではないでしょうか。

 紙文化・押印文化が根強い企業間取引においても、電子契約が浸透し始めています。特に2020年以降は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響からリモートワークをする人が増え、導入企業が増えています。物理的な書類をやり取りするよりも電子契約のほうが利便性が高いためです。

 JIPDEC(日本情報経済社会推進協会)による2020年の調査では、すでに4割以上の企業が「複数の部⾨、取引先との間で電⼦契約を採⽤している」とし、約3割の企業が「今後の電⼦契約の採⽤を検討している」としています(図1)。

電子契約を成立させるための電子サイン

 電子契約と並んで、よく見聞きする用語に「電子サイン」「電子署名」があります。これらは、どう違い、どのように使い分けられているのでしょうか。

 まず電子サインです。インターネットを介したやり取りでは、相手と顔を合わせずに契約ができる反面、相手が本当に契約する相手であるのか(なりすましではないのか)や、契約内容に同意した以降に改ざんされる危険性はないのかという不安がつきまといます。そのため、本人確認と、改ざんがないことを保証する何らか仕組みが必要になります。

 その仕組みとして使われるのが電子サインです。電子サインは、電子契約を成立させるための電子プロセスだと言い換えられます。

 一般的に電子サインでは、電子メールアドレス、ユーザーID、SMS(ショートメッセージサービス)、パスワード、認証用URLなどを使って本人確認を行います。オンラインショッピングの購入手続きでは、IDとパスワードによるログインが求められますが、この処理で本人確認を行っています。本人確認をより厳密にする場合は、複数の認証方式を組み合わせて使うこともあります。

 ビジネスの電子契約で使われる電子サインとしては、様々なベンダーがソリューションを提供しています。ほとんどが、本人確認のプロセスに加えて、その契約書を誰が作成したのか、誰が承認したのか、誰が署名したのか、誰が閲覧したのかなどの操作ログを追跡できる機能を備えています。この機能により、契約締結後に改ざんがないことが証明できます。

 (1)契約の当事者が同意していること、(2)契約の同意の後に改ざんされていないことの2点を確認できることは、電子契約を成立させる上での必須条件です。ログの追跡機能により、紙の契約書よりもトレーサビリティ(追跡可能性)を確保できることから、コンプライアンス(法令遵守)の面でもメリットがあります。