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移動データの価値を高める周辺領域とのデータ連携【第4回】

石川 信太朗(スマートドライブ Mobility Data Scientist)
2021年12月2日

データ連携でエコシステムとしての課題解決をする

例1:車両の積載率をリアルタイムに可視化する

連携内容 :在庫管理・発注サービス「SmartMat Cloud」(スマートショッピング製)+ Mobility Data Platform

 スマートショッピングが提供する「SmartMat Cloud」は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)対応のマット型重量計「SmartMat」を使って棚などに置かれた商品の在庫量を測り、一定量を下回れば自動で補充発注するサービスです。

 このSmartMatを、弊社が提供する車内にWi-Fi環境を構築できるデバイス「SmartDrive Wi-Fi Hub」を使って車両の荷台に設置することで、積み込まれている荷物の重量や個数などを取得できるようにしました。

 SmartMatで取得したデータは一旦、SmarMatCloudに送られ、そのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を通じてMobility Data Platformに連携します。

 連携したデータを弊社のフリート管理サービス「SmartDrive Fleet」から参照することで、車両の積載率をリアルタイムで可視化するとともに、積載率が低く、かつ目的に近い車両を配車するといった運用が可能になります。

例2:EV(電気自動車)のSoC(充電率)を算出する

連携内容 :EV向け給電サービス「エコQ電」(エネゲート製)+ Mobility Data Platform

 EVのSOC(充電率)は、EVを採用する際の鍵となる指標です。バッテリーの最大充電容量に対する残容量の割合で定義されます。「電欠」と呼ばれるバッテリー切れの予防や充電時間を加味した配車などのために、汎用的な取得が求められます。

 先にも述べたように、SOCの取得は、後付けデバイスでは難易度が高いのが実状です。そこでEVを充電する際のエコQ電のデータと連携することで、充電側のデータを取得することにしました。

 充電側のデータと弊社サービスが持つ走行距離データを組み合わせることでSOC値を予測できるようにしました。車種を問わずEVのSOCを算出でき、その値に基づいた配車などが可能になります。

例3:地域の観光資源の最大化と新たな魅力の発見

連携内容 :SNSデータ分析サービス(ナイトレイ製)+ Mobility Data Platform

 ナイトレイは、地域活性化のために位置情報というビッグデータの解析を手掛けるベンチャー企業です。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の分析も手掛け、観光客が旅先で発信するSNSの分析では、観光客の関心事を可視化しています。

 このSNSの分析データを、弊社が持つ移動経路や滞在場所・時間などの移動データを掛け合わせれば、観光客の動きだけでなく、関心事や、素通りされてしまっている観光地、あるいは逆に地元が気付いていない観光スポットなどが把握できます。

 地域での観光客の動きと関心事などが分かれば、観光客の移動をスムーズにするための施策や、パンフレットや案内看板の配布・設置場所などを検討することで、知名度が低い観光スポットへ誘導するなど観光資源の最大化が図れることになります。

 この仕組みは、出光興産が千葉県館山市と南房総市で実証する超小型EVのシェアリングサービスに採用されました。周辺の観光地をサジェストすることで、利用1回辺りの観光地への回遊数を増やすのが目的です。

例4:業務アプリケーション上で移動データを扱う

連携内容 :アプリケーションの開発・実行クラウド「kintone」(サイボウズ製)+ Mobility Data Platform

 例1〜3は、他社のデータを弊社のMobility Data Platformに取り入れる形のデータ連携でした。例4は、Mobility Data Platformのデータを他社に提供する形です。

 サイボウズの「kintone」は。業務アプリケーションを開発・実行するためのクラウドサービスです。弊社顧客企業でも、車両運行に関する日常点検や日報はSmartDrive Fleetで、訪問先一覧はkintoneで、それぞれ管理していたりします。しかし、複数のアプリケーションを使って関連業務を処理することで生まれる運用コストは無視できないほどに大きくなっていきます。

 これを、SmartDrive Fleetが蓄積している走行データをAPIを通じてkintoneに自動で連携すれば、利用者はSmartDrive Fleetの画面を開くことなくkintone側で一連の処理を完了できるようになります。ユーザーインタフェースが統一できれば、現場の負荷が下がるため、大手企業が積極的に導入するきっかけになっています。

競争ではなく共創でモビリティ産業のさらなる進化を後押しする

 いかがでしょうか。いずれも、複数サービスのデータを連携することで、移動に関する新たな価値を生み出せていると思います。

 加えて、いずれの事例も、開発期間は最大1カ月です。すべてを自社で開発していれば、半年から1年といった時間がかかっていたでしょう。戦略的に周辺領域で共創(オープンイノベーション)に取り組むことは、結果的に顧客への価値を最速で届けられるのです(図2)。

図2:“競争”ではなく“共創”によって移動データが生み出す価値を最速で届ける

 Best-of-Breedあるいは共創といった思想を広げることが、移動データに基づく価値を、より高められ、より早く創出することにつながるはずです。

石川 信太朗(いしかわ・しんたろう)

スマートドライブ 先進技術事業開発部 Mobility Data Scientist。大阪大学大学院理学研究科数学専攻修了。人材系のベンチャー企業にてキャリアをスタートし、CRM、MA、DMP、BIなど最新テクノロジーの導入・利活用を推進。スマートドライブのMobility Data Scientist就任後は、移動データや移動データに関連の深い周辺領域のデータの分析を担当。分析基盤の構築や、データ連携、ビジュアルアナリティクスの推進、インサイト抽出などを支援している。Marketing Technology of The Year 2019受賞、Data Sabarプログラム修了。