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移動データのビジネス活用プロジェクトの要諦【第2回】

弘中 丈巳(スマートドライブ 執行役員CRO)
2021年9月27日

第1回では、移動データの変遷と、その活用に向けた可能性について触れました。今回は、移動データの活用について「実ビジネスに活かす」という視点から、プロジェクトをどのようにスタートすべきかについて、弊社が取り組んでいる実事例を踏まえながら考えていきます。

 第1回で説明したように、移動データは多様で膨大なデジタルデータへと変貌してきました。カーナビやデジタルタコメーター(デジタコ)、道路交通情報の「VICS」、テレマティクス、スマートフォンといったIT技術の進化によって「ビッグデータ」としての要件を満たすようになってきたためです。

 ビッグデータの活用は一朝一夕でできるものではありません。ですが、その取り組みに成功した企業が高い競争力を手にしていることから、移動データを解析しビジネスに利用していこうとする流れは、今後も続いていくでしょう。

 しかし、移動データを活用するためのプロジェクトは、読者が想像される通り、チーム体制が非常に複雑になるのが一般的です。その理由は、複数社・複数レイヤーからの参画が不可欠だからです。

 具体的には、移動データを活用するためには技術面だけでも、センサーデバイスから、通信、サービス提供用のアプリケーション、データ基盤、データの統合・分析などまで複数のレイヤーが存在します。そこに加えて、全体設計やプロジェクトマネジメント、デバイスのロジスティクスなどが必要になります。必然的に複雑なプロジェクト体制が敷かれることになります。

 では、移動データを活用し「ビジネス化を図る」「ビジネスとして定量的な成果を出す」ためには、どうすれば良いのでしょうか。

移動データを活用するプロジェクトが直面する問題

 弊社が顧客企業などとともに進めるプロジェクトにおいて強く意識しているのが「Quick Win」です。

 Quick Winという言葉自体は聞かれたことがあるかと思います。「まずは小さくても成果を出す」という意味で、プロジェクト推進においては、取り組む対象に優先順位を付けるために「効果/成果」と「難易度」の2つの軸で切り分け整理し、図1に示す①から順に解決していこうとする考え方です。

図1:「Quick Win」における取り組み対象の分類・整理と、取り組む優先順位

 Quick Winを意識することで、「絞る」「進める」という部分にフォーカスでき、結果として「成果を出す」ことの可能性が高まってきます。

 このように考えて実践することは“当然”のように思えますが、移動データの活用プロジェクトでは、しばしば①ではなく、③を初期のゴールに設定してしまうことがあります。以下のような理由が原因です。

・地域住民や公共交通機関の関与が必要なケースが多く、ロジスティクス周りまで含めるためプロジェクト自体が大きくなりやすい
・移動データの粒度が細かくビッグデータ化しやすい(例えば弊社ではGPSの位置情報を1秒に1回、加速度センサーのデータは0.1秒に1回の頻度で収集しています)

 さらに、移動データと組み合わせられるデータの種類が非常に多いため、考えれば考えるほどデータの組み合わせ・量が増えていくということもあります。結果、①が初期のゴールであることを頭では理解していても、ディスカッションが進むにつれ、③に近いゴールが設定されていくのです。

 一方で、こうした傾向は決して悲観的なことばかりではありません。そうなるほどに、「移動データは社会を変える力を持っている」と誰しもが思っていて、その可能性にみんなが“ワクワクしている”という証だと感じられるからです。

 さらに、そこでのディスカッションも、発想を広げ可能性を高める貯めに考える「Big Think」として、決して無駄にはなりません。