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- 顧客接点を支えるeKYCの基礎知識
利用場面が広がる「eKYC」の基本【後編・活用例】
携帯キャリアの契約にもeKYCの採用が進む
eKYCは、携帯電話などの通信契約における本人確認にも利用されています。国内の携帯キャリアとして初めてeKYCを導入したのは楽天モバイルです。2020年11月から「AIかんたん本人確認(eKYC)」を提供しています。
AIかんたん本人確認(eKYC)は、eSIMの新規契約時に利用できます。スマホアプリ「my 楽天モバイル」から、選択し、本人確認書類をカメラで撮影すれば、通常5分程度で審査が終わり、続けて開通手続きまでが済ませられます。
対応する本人確認書類は、運転免許証かマイナンバーの2種類です。撮影する画像は、表面と裏面(運転免許証の場合のみ)、厚さ、顔の正面と、まばたきです。楽天モバイルは、eKYCのほかにも、書類画像(運転免許証やマイナンバーカード)のアップロードによる確認や、受け取り時の自宅での確認を選択できます。
NTTドコモが2021年3月に開始した新料金プラン「ahamo」もeKYCを採用しています。以前は、運転免許証などの本人確認書類をアップロードし、SIMカードやスマートフォンを本人が受領する必要がありました。eKYCの導入により、本人確認がオンラインで完結できるようになりました。
両社以外の国内キャリアもeKYCへの対応を表明しています。今後は、標準的な本人確認の仕組みとして採用されていくでしょう。例えばauは2020年12月、同社EC(電子商取引)サイト「au Online Shop」にeKYCを導入しました。他のサービスやグループ会社でもeKYCの導入を進めるとしています。
NTTドコモの不正送金事件を契機にeKYCの導入が加速
eKYCの採用が進む背景には、本人確認の厳格化の流れがあります。特に国内では、NTTドコモの決済サービス「ドコモ口座」において2020年8月に起こった不正送金事件を契機に、本人確認にeKYCを採用する動きが進みました。
ドコモ口座の不正利用を受けてNTTドコモは2020年10月、ドコモショップでの手続きかeKYCの利用を促しました。その際のeKYCは、「d払いアプリ」を通じて本人確認書類(運転免許証、運転経歴証明書、マイナンバーカード、在留カード)と本人の顔写真を送信するものでした。
キャッシュレス決済にいち早くeKYCを導入したメルカリは2020年9月、本人確認と不正利用対策の強化を発表しました。契約時だけでなく、アプリ内で新規に金融機関口座を登録する場合や、金融機関口座からチャージする際にもeKYCを実施するようになっています。
LINE Payでは、AI(人工知能)技術「LINE CLOVA」とeKYC技術を活用した新しいサービスを金融機関を対象に提供すると発表しました。LINE上で口座保有者が本人であることを継続的に確認できる仕組みです。具体的には、LINE Payが金融機関から委託を受けて、対象顧客に対し本人確認依頼を通知しトーク画面内で本人確認を行い、その結果を金融機関にフィードバックします。
オンライン化が進む多様なサービスへの導入は不可避
eKYCの導入機運の高まりを背景に、eKYCを各社のサービスに組み込むための製品/サービスも増えています。
例えば、LINE Payや楽天モバイルのeKYC、auの自分銀行などが採用しているのは、NECの本人確認サービス「Digital KYC」です。auの「au Online Shop」やKDDIの「下取りプログラム」などで採用されているのは、Liquidの「LIQUID eKYC」です。
ほかにも、GMOグローバルサインの「GMO顔認証eKYC」、ポラリファイの「Polarify eKYC」、ネクスウェイ「ネクスウェイ本人確認サービス」などが提供されています。
これら製品/サービスにおいては、顔認証精度の高さやAI技術活用の有無、対応している本人確認書類の種類、専用アプリだけでなくブラウザからも利用できるか、自社システムに組み込み易いかといった違いがあります。
本人確認を厳格化する流れは強まることはあれ弱まることはないでしょう。例えば犯収法が特定事業者に定めるのは47事業者です。銀行、信金、中央金庫、保険、ファイナンスリース、クレジットカード、宅地建物取引業者、貴金属売買事業者、電話伝送サービス、弁護士、公認会計士、税理士などです。
今後は、これら47業種だけでなく、社会的ニーズを受けて登場・拡大している新しい業種・業態への採用が進でしょう。具体的には、SNSの会員登録、チケット売買、行政のオンライン手続き、コールセンターでの本人確認、カーシェアや民泊といったシェアリングエコノミーなどです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み、上記のような新規事業/新サービスを立ち上げることは、オンライン環境に新たな顧客接点を設け運用することにほかなりません。eKYCはDX時代におけるキーコンポーネントの1つだと言えるでしょう。