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  • 顧客接点を支えるeKYCの基礎知識

利用場面が広がる「eKYC」の基本【前編】

齋藤 公二(インサイト合同会社 代表)
2021年8月27日

サービスのデジタル化が進む中、利用ニーズが高まっているのが「eKYC(電子本人確認:electronic Know Your Customer)です。本人確認用文書の偽装や本人自体の“なりすまし”も容易になってしまうオンライン環境における本人確認を可能にします。各種サービスのオンライン化を考えるうえでは、eKYCの理解が不可欠です。

 「eKYC」は「electronic Know Your Customer」の略で、電子的な本人確認の仕組みです。KYC(Know Your Customer)は「顧客を知る」という意味ですが、金融業界においては、銀行口座を開設する際などに必要な本人確認手続きのことを指してきました。

 本人確認手続きは法律で定められています。従来は対面や郵送で確認しなければなりませんでした。それが2018年11月、「犯罪収益移転防止法(犯収法)施行規則」が改正されたことで、金融機関をはじめ特定事業者の本人確認においては、PCやスマートフォンなどによるオンラインでの本人確認が可能になりました。

 具体的には、顔写真や本人確認書類の撮影、ICチップの読み取り・照合などにより手続きがオンラインで完結する本人確認方法が認められたのです。こうした対面や郵送が原則だったKYCを、オンラインで電子的に行なう仕組みがeKYCです。

 犯収法の改正以降、eKYCを導入する事業者が増えています。消費者向け決済サービスとして一気に普及医した、いわゆる「○○ペイ」と呼ばれるスマートフォン向けサービスでは、ほとんどのサービスが、スマホのカメラを使って、免許証などの本人確認書類や本人の顔写真を撮影するだけで、簡単に本人確認ができる仕組みを備えています。

 スマホの契約においても、楽天モバイルが携帯キャリアサービスとして初めてeKYCに対応したほか、NTTドコモもオンライン専用の廉価版サービス「ahamo」においてeKYCへの対応を発表しています。

eKYCが注目される背景とメリット

 eKYCが注目される背景の1つが、PCやスマホを使ったネット取引の増加があります。そこには、本人確認をオンラインで完結したいという顧客ニーズと、オンライン化で利用者の利便性を高めたいという事業者ニーズが合致します。

 利用者にすれば、オンラインで取引するために、銀行の店舗に出向いて口座を開設したり、必要書類を郵便で送ったり受け取ったりすることは大きな手間です。それがオンラインで完結できれば、対面でのやり取りや郵送の手間がなくなり、必要なときにすぐサービスを利用できるようになります。

 一方の事業者にしても、本人確認をオンラインで完結できれば、取引開始までのスピードが上がるほか、対面や郵送による本人確認には必要だった業務の負荷や手間を削減できます。

 1つの背景は、本人確認手続きの厳格化です。そもそも犯収法は、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」です。マネーローンダリングやテロ資金供与防止を目的に、特定の事業者が取引する際の本人確認などについて定めています。電子的な本人確認には、より厳密で、精度が高く、偽造も困難な本人確認が可能にする狙いがあります。万が一の際の追跡も容易になります。

 犯収法は今も本人確認手続きの厳格化が進められています。2020年4月の改正では、非対面の本人確認書類の範囲が厳格化され、運転免許証のコピ―のような写しの場合は、2つ以上の本人確認資料の送付を受けることが必要になりました。

 これら、非対面取引における利便性向上と、本人確認の厳格化という2つの理由を背景に、今後も様々な領域でeKYCの導入が広がるとみられています。