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  • 顧客価値を高めるためのデータ活用とCDP

あなたの会社のDXが進まない理由【第1回】

小川 裕史(サイトコア ソリューションコンサルタント)
2022年4月7日

世界でデジタルシフトやデータ活用が進むなか、日本企業は今ひとつ存在感を発揮できないでいる。データ活用の重要性を理解し実際に取り組んでいるにもかかわらず、その成果がなかなか見えにくい状況が続いている。今回は、データ活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むものの、進捗が滞っている組織の特徴と、その解決策を説明する。

 かつて企業の資産といえば「人、モノ、カネ」と言われていた。しかし今は、「データ」を加えた「人、モノ、カネ、データ」が4大資産だと言われるようになった。

膨大なデータだけがあっても役に立たない

 2010年代には「ビッグデータ」というバズワードが登場し、「とにかく膨大なデータを集めよう」と大規模データプラットフォームを導入した企業も多い。グローバル展開するデータベースベンダーや顧客分析を得意とするCRM(顧客関係管理)システムベンダーなどが「このプラットフォームを使えば大規模データを有効活用できる」と訴え、それを信じてIT投資を決断した経営者もいるだろう。

 しかし、ビッグデータのブームから10年近くが経つものの、データを有効活用し新しいビジネスモデルを展開したり、グローバルに存在感を高めたりした日本企業は、ほとんどいない。最新テクノロジーやデータを生かし新しいビジネスをグローバルレベルに成長させるという点では、中国やASEANのスタートアップ企業のほうが勢いがある。

 例えばシンガポールのGrabが、その1社。世界中から毎ラウンド1000億円以上の資金を集めるデカコーン企業である。同社は2012年、マレーシア・クアラルンプールでのタクシー配車サービス事業からスタートし、フィリピンやシンガポールへと事業範囲を拡大。変動制の料金設定サービスや決済サービス、保険サービスと事業を拡張し、2020年にはデジタル銀行の免許交付を受けた。今後もASEANユーザーの膨大なデータを背景に、人々のニーズをきめ細かく分析しながら新たなビジネスを立ち上げていくことだろう。

 ただ、「大量のデータがあるだけ」「ただ集めているだけ」では、Grabのような成長は見込めない。そもそも企業の成長にはビジネスアイデアやタイミングといった要因に加え、新たなアイデアの発見や適切なタイミングの見極めが重要である。そうした発見や見極めにおいても、データの活用が有効だ。

 「分析ツールを導入し、いつも顧客を分析しています」という企業もある。だが、その分析が事業成果に結び付いていないのであれば、そもそも分析の目的が事業とずれている可能性がある。ツールやデータのせいではなく、まずはビジネス課題を明確化し、その目的に合ったデータ収集からスタートする必要がある。

DMPによる顧客のペルソナが機能しなくなってきた

 ビッグデータブームの折、データ収集・分析と並行して、多くの企業が取り組んだのが「自社の顧客理解を深めるためにDMP(Data Management Platform)を構築してペルソナを作ろう」という動きである。

 DMPは、膨大なデータを蓄積・分析するプラットフォームだ。自社の保有データである「ファーストパーティデータ」に、自社ではなかなか収集できない「サードパーティデータ」を組み合わせることで顧客の嗜好や興味・関心の傾向を探ったり、見えにくい顧客像を可視化したりするために活用するケースが多かった。サードパーティデータとは、データの提供者が独自に収集したデモグラフィック(demographics)データ、すなわち人口統計学的な顧客の属性データである。

 以前のDMPは、あくまでも営業活動やマーケティグ戦略立案への活用を想定していた。言い換えれば、典型的なユーザー像である“ペルソナ”の作成が目的で、「営業やマーケティングに使えるかもしれない」と、活用の目標が漠然としていた。

 しかし2020年代には、そうしたあいまいな目的やスピード感ではペルソナも役立たなくなってきた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でデジタルシフトが急激に進み、デジタルチャネルの位置付けが非常に高くなってきたからだ。

 例えば、これまで実際の店舗で製品/サービスを購入していた顧客も、EC(電子商取引)サイトで買う機会が増えた。実店舗では、顧客を覚えている店員が適切な対応ができても、その顧客が初めて訪れたECサイトでは、顧客の好みはもちろん、何が必要なのかもかわからない。こうした事態を防ぐためのDMPも、Webサイトと連携していなかったり応答が遅かったりすると、せっかくのペルソナも役に立たなくなってしまう。

 さらにいえば、次の3つの課題を引き起こすリスクがある(図1)。

図1:DMPを使ったデータ活用における3つの課題