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  • 移動が社会を変えていく、国内MaaSの最前線

持続可能な地域社会を支える「地方型MaaS」の取り組み【第4回】

愛甲 峻(インプレス総合研究所)
2022年8月29日

朝日町:住民同士が助け合うマイカーによる乗り合いを本格運用

 富山県下新川郡朝日町は、地域の公共交通を補完するための公共交通サービスとして「ノッカルあさひまち」を運行している。約1年の実証実験期間を経て、2021年10月に本格運行を開始した。

 ノッカルあさひまちの特徴は、地域住民がドライバーとしてボランティアで参加し、自家用車を使って移動サービスを提供する点だ。ドライバーとなる住民は、自身の仕事や買い物など自家用車での移動予定を事前にシステムに登録しておく。利用者は、同じ方面に移動する予定を調べ、LINE公式アカウントか電話で相乗りを予約する(図1)。

図1:ノッカルあさひまちの運行イメージ(出所:博報堂 ニュースリリース

 ノッカルあさひまちは、地域の交通事業者が自家用車による運送サービスに協力する「事業者協力型自家用有償旅客運送」制度の全国初の事例でもある。地域のタクシー会社、黒東自動車商会が、予約管理やドライバーの点呼といった運行管理を担当し、安全かつ円滑な運行を担保する。

 実証実験は、スズキおよび博報堂と「地域の移動課題解決に向けた連携に関する協定書」を締結して実施した。朝日町が、ノッカルあさひまちの運行主体となり、博報堂がサービス設計やシステムの開発・提供、デザイン制作を担当した。スズキは、サービス設計や一部車両の貸与・維持管理で協力する。

 朝日町では、高齢者の運転免許返納が増え、公共交通サービスへの需要が高まっている。ノッカルあさひまちでは、関係人口の創出につながる公共交通サービスを目指し、継続して提供できるようにしたい考えだ。移動に関する課題を解決することで地域の一体感の醸成を期待する。

京丹後市:生活を支える地域密着型のAIオンデマンド交通

 京都府京丹後市は、AIオンデマンド交通「mobi」を提供している。運行エリア内を自由に乗り降りできる乗り合い型のサービスだ。地域に密着した、住民の生活交通としてのサービスを目指している。2021年3月に無償での実証実験を開始し、同年6月に有償での本格運行に移行した。

 Mobiの運行エリアは、京都丹後鉄道の「峰山駅」を含む南北に約4.5キロメートル、東西に約4キロメートルの範囲。同エリア内に260カ所の仮想バス停を配置している。利用者は乗降地点を選択し、専用のスマートフォン用アプリケーションか電話で乗車を予約する(図2)。車両運行は地域のタクシー会社である峰山自動車が担当する。スマホアプリや予約システムはCommunity Mobilityが開発・運用している。

図2:「mobi」のスマートフォン用アプリケーションの画面例(出所:Community Mobilityウェブサイト

 仮想バス停には、提携した施設や病院も設定する。それら施設・病院を発着地点とすれば、利用者は無料で乗車できる。施設や病院からすれば、mobiを送迎バスサービスとして提供でき、集客が期待できる。2022年7月時点では、病院やレジャー施設、習い事教室など7か所が登録されている。

 mobiは、月額5000円で乗り放題のサブスクリプション(購読)型料金制度を採っている点も特徴だ。家族会員制度では、家族のうち1人が正会員になれば最大6人まで1人当たり月額500円の家族会員としてサービスを利用できる。

 京丹後市ではタクシー事業者の撤退が相次ぎ、市内の一部地域が交通空白地域になるなどの課題が生じている。主要な公共交通である京都丹後鉄道の駅も、かつては蒸気鉄道だったことから住宅街から離れた場所にある。結果、自家用車への依存度が高まっているのが現状である。

 次回は、観光事業の活性化を目指す「観光型MaaS」の取り組みの特徴や、解決を目指す課題、取り組み事例を紹介する。

本連載は、インプレス総合研究所が発行する調査報告書『MaaSのサービス構築とデータ活用の最新動向2022』(2022年4月)の内容の一部を抜粋・再編集したものです。下記から無料のサンプルPDFをダウンロードいただけます。

     MaaSのサービス構築とデータ活用の最新動向2022