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スムーズな観光周遊を促す「観光地型MaaS」の取り組み【第5回】

愛甲 峻(インプレス総合研究所)
2022年9月26日

前回は、人口規模が小さい地方都市の郊外や過疎地におけるMaaS(Mobility as a Service)の取り組みを紹介した。今回は、地域の人口や公共交通ネットワークの規模を問わず、観光客を対象にした「観光地型MaaS」について、その特徴や傾向、事例を通じた課題解決の視点を紹介する。

 「観光地型MaaS(Mobility as a Service)」は観光客による利用を想定したMaaSの取り組みを指す。多くの観光地では、国内外からの観光客が、その地域の公共交通をうまく利用できず、散在する観光スポットを周遊できていないことが課題になっている。観光資源を有効活用できなかったり、一部の観光スポットに人が偏り混雑が発生したりという課題が生じている。自家用車で訪れた観光客による交通渋滞が課題になる地域もある。

 観光地型MaaSが目指すのは、以下のような社会課題の解決である。

・観光客の減少に悩む観光地を活性化する
・一部の地域に観光客が偏ることによる道路渋滞や交通混雑(オーバーツーリズム)を解消する
・訪日外国人を含めた観光客のニーズに合った周遊ルートや、わかりやすいチケット購入の仕組みを提供する
・新型コロナウイルス感染症を想定した密を避けた観光周遊に対応する

観光地型MaaSの取り組みに見られる3つの傾向

 観光地型MaaSには、大きく3つの傾向が見られる。(1)観光地への主要交通と現地での二次交通の統合、(2)企画乗車券・フリーパスの電子チケット化、(3)観光関連情報の配信による観光周遊や消費の促進、である。

傾向1:観光地への主要交通と現地での二次交通の統合

 観光地型MaaSの目的は、観光地への集客と、現地での周遊促進である。そのため、観光地までの鉄道や高速バス、新幹線や航空機などの主要交通と、観光地での路線バスやタクシーなどの二次交通の乗車券や経路情報を一体的に提供する。出発地から目的地までの移動をワンストップ化できる点が利点になる。

 経路の統合は、航空会社や大手鉄道事業者など主要交通の提供者が、現地の路線バスやタクシー、シェアサイクル等の事業者と連携して実施するケースが多い。

傾向2:企画乗車券・フリーパスの電子チケット化

 観光地では以前から、地域内の複数の公共交通の利用券を組み合わせた企画乗車券や、一定期間乗り放題になるフリーパスが提供されてきた。観光地型MaaSでは、そうした紙の企画乗車券やフリーパスを電子チケットとして提供する例が多い。

 電子チケット化の利点は、利用者がチケット代金を事前に決済できる点や、新型コロナの感染拡大による非接触化ニーズに対応できる点に加え、利用者の移動データを取得・蓄積することで、地域交通手段の利用状況や周遊ルートの分析に利用できる点だ。紙のチケットの発行にかかるコストも削減できる。

傾向3:観光関連情報の配信による観光周遊や消費の促進

 観光地では、移動手段の情報と並んで、目的地となる観光スポットや飲食店、土産物店などの情報発信が重要である。観光地型MaaSでは、インターネット上での検索では、なかなかアクセスされにくいローカルな観光情報を配信し、観光周遊や消費を喚起する。

 利用者の属性に適合した観光スポットをAI(人工知能)技術を使ってマッチングするサービスを提供する例もある。利用者のニーズに合った周遊ルートを自動で作成し、公共交通の電子チケットと併せて提供することで、利便性の高い観光周遊をうながす。

 3つの傾向を持つ観光地型MaaSの事例として2つの実証実験を紹介する。