• Column
  • 移動が社会を変えていく、国内MaaSの最前線

MaaSの拡大に向けた課題とこれから【第6回】

愛甲 峻(インプレス総合研究所)
2022年10月31日

前回までに、MaaS(Mobility as a Service)の基礎から国の支援策、そして日本国内でのMaaSの取り組みを都市型、地方型、観光地型の3つに分けて紹介してきた。今回は、MaaSを推進していくにあたっての課題と今後の展望について紹介する。

 MaaS(Mobility as a Service)を推進するに当たっては、検討すべき、さまざまな課題がある。新しい概念のサービスであることや、その実行には複数の事業者が連携しなければならないことなどが前提になるからだ。本連載で紹介してきたように、今も全国各地で、さまざまな事業者や自治体が理想的なサービスのあり方を模索し、実証実験を通じた試行錯誤が続く。

MaaSの推進における3つの課題

 MaaSを推進する際の、さまざまな検討課題の中でも特に大きな課題になるのが、(1)事業者連携、(2)サービスの構築、(3)事業化の3つである。

事業者連携の課題:移動の周辺にあるサービスとの連携を拡大する

 MaaSの利用者の移動目的は、買い物や通院、観光施設の利用など、さまざまである。より多く利用者を獲得するためには、それら移動の目的を担う事業者との連携が必要である。高齢者の外出促進や公共交通の利用者増、観光消費の拡大といった行動変容を促すには、幅広い事業者との連携は不可欠だ。

 現状、MaaSにおける移動サービスと関連サービスの連携は、スマートフォン用アプリケーションやWebサイトにおいて、商業店舗の情報やクーポンの配信、乗車券と観光施設の利用券の組み合わせ販売などが中心である。利用者拡大に向け、より効果的なサービスの提供や利用者の定着のためには今後、より深いレベルでの連携や、幅広い事業者の参画が求められる。

サービス構築の課題:利用者ニーズを考慮したサービスをデザインする

 MaaSの利用者には幅広い年代の人が含まれる。より多くの利用者を獲得するには、年代を問わず、誰もが使いやすい形でのサービスを構築できなければならない。

 例えば、MaaSの実現にはスマホをはじめデジタル技術を活用している。だが、高齢者の利用を考えれば、デジタルデバイド(情報格差)を起こさないためのサービスやUI(User Interface)などをデザインし構築しなければならない。

 サービス自体のデザインに加え、高齢者向けにスマホ教室を開催しデジタル機器利用のハードルを下げたり、電話予約や紙のチケットなどアナログな手段でのサービスを利用可能にしたりすることも検討する必要がある。

事業化の課題:副次的な効果を含め施策を評価する

 MaaSの取り組みにおいて、事業化し継続できている事例は限られる。事業者や自治体は実証実験を通じ、地域における社会的受容性や課題解決への有効性、事業者のビジネスに与える影響などを検証しながら、望ましいサービスのあり方を模索している。MaaSの事業化を軌道に乗せるには、その効果の測定・評価において、副次的な効果を含め多面的に評価できるかどうかが問われる。

 例えば、利用者が減った路線バスの代替としてAIオンデマンド交通を導入する場合、AIオンデマンド交通の直接的な効果は、運行の効率化によるコスト削減である。だが副次的な効果として、地域住民の外出促進による健康増進や地域コミュニティの活性化などが期待できるため、これら効果の測定・評価が不可欠になる。

 同様に、観光地型MaaSでは、観光周遊の促進による交通サービスや観光施設の利用増加に加えて、地域全体での消費の増大やブランド力の向上が見込める。移動サービス単体での採算性だけではなく、移動に関連する種々の領域への波及効果を含めた施策の効果検証が重要である。