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持続可能な地域社会を支える「地方型MaaS」の取り組み【第4回】

愛甲 峻(インプレス総合研究所)
2022年8月29日

前回は、複数の公共交通が近接する都市部におけるMaaS(Mobility as a Service)の取り組みを紹介した。今回は、人口規模が小さい地方都市の郊外や過疎地での取り組みである「地方型MaaS」について、その特徴や傾向、事例を通じた課題解決の視点を紹介する。

 「地方型MaaS(Mobility as a Service)」は地方部におけるMaaSの取り組みを指す。都市部に比べ公共交通が限られることに加えて近年は、少子高齢化や人口減少に伴い、交通環境が大きく変化している。具体的には、利用者の減少による事業の採算悪化やドライバー不足による事業規模の縮小・撤退が進むなか、免許返納を勧められる高齢者を中心とした交通弱者の増加といった問題が顕在化している。

 地方型MaaSが目指すのは、以下のような社会課題の解決である。

・利用者が減少し地域の公共交通が衰退・撤退する中でサービスを維持・改善する
・免許返納者を中心とした高齢者の移動手段を確保する
・過度な自家用車依存からの公共交通利用への転換を促す
・地域の移動の不活発化、地域経済の衰退を防ぎ、地域の活力を維持する

地方型MaaSの取り組みに見られる3つの傾向

 地方型MaaSには、いくつかの傾向が見られる。大別すると、(1)AI(人工知能)技術を活用したオンデマンド交通による公共交通の効率改善、(2)自家用車や企業送迎バスなどの輸送資源の公共交通としての活用、(3)キャッシュレス決済の導入による利便性の向上などが挙げられる。

傾向1:AI技術を活用したオンデマンド交通による公共交通の効率改善

 地方では利用者の減少により、路線バスやコミュニティバスといった定時・定路線型の公共交通が縮小・撤退している。利用者ニーズと運行負荷の軽減を両立できるよう、より柔軟な運行が可能な乗合型のオンデマンド交通に切り替える取り組みが増えている。運行効率を改善し、公共交通サービスの持続性を高める。

 近年では、オンデマンド交通へのAI技術の活用が広がっている。複数の利用者からの予約に対し、最適な運行ルートを計算し配車する。国土交通省が、AIオンデマンド交通システムの導入にかかる費用の一部を、MaaSの基盤整備を目的とした「新型輸送サービス導入支援事業」で補助している。なお、この仕組みは、都市型MaaSでも公共交通の補完や渋滞解消などを目的に導入されるケースがある。

傾向2:自家用車や企業送迎バスなどの輸送資源の公共交通としての活用

 バスやタクシーなど公共交通が不十分な困難な地域では、自家用車や企業の送迎バス、ホテル向けのシャトルバスなど個人や限られた利用者を対象にする移動手段も貴重な輸送資源になる。これら輸送資源と地域の利用者のマッチングを図ることで、公共交通として利用する。

 自家用車や企業送迎バスなどを公共交通サービスとして提供する際は、市町村やNPO(特定非営利活動)法人などが運送サービスを提供する「自家用有償旅客運送制度」を利用することが多い。2020年11月の道路運送法改正により「事業者協力型自家用有償旅客運送制度」が創設され、地域のバス・タクシー事業者が運行管理や車両整備管理で協力できるようになった。

傾向3:キャッシュレス決済の導入による利便性の向上

 交通系ICカードやQR(2次元)コード決済、非接触型クレジットカード決済などのキャッシュレス決済に対応することで、公共交通サービスの利便性を高め利用者数の増加を促す。キャッシュレス決済の導入には、そのための設備の導入・運用にかかるコスト面から、都市部先行で広がってきたが、地方でも導入する動きが広がってきた。

 キャッシュレス決済は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策としての非接触化や、訪日外国人観光客への対応といった側面からも必要性が高まっている。国交省は「地域交通キャッシュレス決済導入支援事業」を実施している。

 これらの傾向を持つ地方型MaaSの事例として2つの実証実験を紹介する。いずれも実証を終え実サービスとしての本格運行に移行している。