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  • 移動が社会を変えていく、国内MaaSの最前線

スムーズな観光周遊を促す「観光地型MaaS」の取り組み【第5回】

愛甲 峻(インプレス総合研究所)
2022年9月26日

会津若松市:独自アプリによる、電子周遊券と地域観光情報の提供

 福島県会津若松市は2019年から、会津地域の観光交通と生活交通の改善を図る「会津Samurai MaaS」プロジェクトを展開している。公共交通による観光客の回遊性の向上や、増加する訪日外国人観光客が使いやすい公共交通の提供といった地域課題の解消が目的だ。

 観光促進では、会津若松市内にとどまらず、周辺自治体を含めた「会津エリア」としての観光周遊の促進に力を入れている。そのために、公共交通と市中心部の公共交通の一体的な情報提供や、観光施設・店舗に関する情報提供に取り組んでいる。

 利用者には、独自開発したスマートフォン用アプリケーションを提供し、乗車券の電子チケット化を図っている(図1)。現金決済による紙のチケットが中心だった地域の鉄道・バス事業者の企画乗車券を電子チケットとして提供し、訪日外国人を含めた観光客が利用しやすくするとともに、新型コロナウイルス感染症予防のための非接触化に対応した。

図1:会津Samurai MaaS Webアプリ(出所:「会津Samurai MaaS」のWebサイト

 アプリは、スマホのOSを問わずにブラウザから利用できるWebアプリとして提供している。

 地域の観光情報も集約し、観光周遊を促進している。観光客が最新かつ正確な情報を得られるよう、観光施設や飲食店の位置情報や営業時間などのスポット情報を管理しアプリに提供するためのシステムを開発した。各種情報は、観光ビューローや商工会議所など地域の関係者が自ら管理する。

宮古島市:観光客と地域住民の利便性を両立する相乗りタクシー

 沖縄県宮古島市は、タクシーの相乗りサービス「がんずぅあいのりタクシー」の実証実験を、2021年1月末から3月末にかけてと、2022年4月から5月にかけての2回にわたり実施した。

 離島である宮古島市では、クルーズ船の来航時などに交通需要が突発的に増加する。交通資源は限られるため、観光客だけでなく、地域住民の移動需要に対応する必要がある。そのため、がんずぅあいのりタクシーでは、観光客による多大な移動需要への対応と、免許返納者を含む地域住民の移動手段の提供の両立を目標にした。

 観光客と地域住民がタクシーを安価に効率よく利用できるよう、複数利用者による予約に対し適切な配車計画と経路を、AI(人工知能)技術を使ってリアルタイムに作成する。利用者は、専用のスマホアプリや電話で乗車を予約する。相乗りの人数に応じた割引料金で利用できる。

 運行エリアは宮古島市中心部だが、観光客向けには、運行エリア外にある提携リゾートホテルと市中心部を結ぶ「ホテル便」を定額で提供した。地域住民には、運行エリア外でも自宅は乗降地点に設定できるほか、運行エリア外にある特定の自治会と市中心部を行き来できる「買い物便」も定額で提供した。

 観光客の利便性を高めるため、スマホアプリでは経路検索アプリ「乗換案内」(ジョルダン製)と連携した。観光客が、宮古島市への経路を検索した際に、出発地からの主要交通に加え、相乗りタクシーの情報も表示し、そこから予約や乗車チケットの購入までができるようにした(図2)。

図2:観光客による「がんずぅあいのりタクシー」の利用イメージ(出所:ジョルダンのプレスリリース

 次回は、MaaSを推進するための課題や将来展望について紹介する。

本連載は、インプレス総合研究所が発行する調査報告書『MaaSのサービス構築とデータ活用の最新動向2022』(2022年4月)の内容の一部を抜粋・再編集したものです。下記から無料のサンプルPDFをダウンロードいただけます。

     MaaSのサービス構築とデータ活用の最新動向2022