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- 移動が社会を変えていく、国内MaaSの最前線
MaaSの拡大に向けた課題とこれから【第6回】
地域の境を超え全国をカバーするMaaSに
上述した課題の先にあるMaaSの将来展望として2つの視点を挙げる。1つは、各地のMaaSが相互に連携し、全国をまたがるMaaSの実現である。国土交通省がMaaSの将来像として掲げる「日本版MaaS」でも、都市型MaaSや地方型MaaSなどが相互に連携する「ユニバーサルなMaaS」をシームレスなサービス像として構想している(図1)。
日本における交通サービスの担い手は、地域によって多種多様である。結果、現時点のMaaSは、地域の交通事業者や自治体が一部エリアを対象に、その地域の課題解決に向けて取り組んでいる。そのため、多数の交通事業者が存在する都市部では複数のMaaSが併存することもあれば、自治体が中心となるMaaSでは、市域や地区など、サービスの対象エリアが限定される。
しかしMaaSの利用者は、特定のエリア内だけで移動しているわけではない。市境や県境を越えての移動は決して珍しくはないが、現状のMaaSのサービス対象範囲を考えれば、一部のサービスを除き、複数のスマホアプリやWebサイトを利用する必要がある。移動に関する社会課題の解決や円滑なユーザー体験の実現において、連携による広域MaaSの実現は、目指すべき方向性の1つである。
MaaSを起点としたスマートシティへと発展
もう1つの視点はスマートシティへの発展である。スマートシティは、都市や街が持つ多様な社会課題の解決や、住民のウェルビーイング(幸福)を向上させるために、さまざまな機能やサービスをデジタル技術によって高度化を図る取り組みだ。その対象領域は、行政サービスや医療、エネルギーなど多岐にわたる。
そして交通領域もスマートシティにおける重要な取り組みの1つである。スマートシティの取り組みの中には、MaaSを軸に、交通の周辺領域におけるデジタル化の取り組みとの連携を図り複合的な課題解決を目指すケースもある。
その一例が、茨城県つくば市における「つくば医療MaaS」プロジェクトである。「つくばスマートシティ協議会」を中心としたスマートシティ関連事業の一環で、高齢化に伴う交通弱者の増加に対し、移動手段を確保し通院による負担を軽減するためにAIオンデマンド交通の導入を推進している。
2022年1月に実施した実証実験では、AIオンデマンド交通と病院の受付とに共通の顔認証システムを導入し、生態認証による利用負荷軽減を検証した(図2)。加えて院内では、自動走行の車いすが、防犯カメラ映像に基づく人流解析により走行ルートを決定し、利用者を目的の診療科へ搬送できるようにした。高齢者の安全な通院から、病院での待ち時間短縮、診療科までの移動までをシームレスにつなげる。病院側の事務手続きにかかるコスト削減も期待する。
これら2つの視点に共通するキーワードは「シームレス」である。これからのMaaSは、周辺領域とのシームレスに連携していくことで、移動の利便性向上にとどまらず、地域の多様な社会課題を解決し、持続的で豊かな社会の実現への貢献が期待されているわけだ。そのためにも先に挙げた3つの課題などの解決に向けた官民を挙げての取り組みが求められる。