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BIMで変わる建設プロセス(資材調達と施工管理編)【第4回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2022年9月5日

現場の進ちょくを遠隔からリアルタイムに把握する

 BIMを使うことで設計段階での建材調達やECでの発注が可能になるとはいえ、工事の進ちょくによっては建材の納期や仕様が変更になることまでは避けられません。そうした事態を防ぐためには、各工事が設計通り、かつ所定の期間内に終わるように現場の進ちょくを管理する必要があります。

 工事の遅れは後工程に影響するだけに進ちょく管理はこれまでも重要視されてきました。現場には、工程計画や施工手順を検討したり材料や技能工を手配したりする工事監理者が常駐しています。昨今の大手ゼネコンの現場では、定点カメラやセンサーを設置し工事の状況を可視化する動きも盛んになってきています。

 工事状況のモニタリングデータをBIMと連携させれば、例えば「この1時間で何をどこまで進めなければいけないか」までの管理が可能になると考えられます。工事の進ちょくをリアルタイムに管理できれば、建材のジャストインタイムでの納入が容易になります。

 納入において特に時間との勝負になるのが、躯体工事に欠かせない生コンクリートです。打設時はもとより、打設後も生コンが硬化する前に降雨などがあれば、構造物の品質に大きく影響してしまいます。BIMに天気予報データを組み合わせれば、生コンの打設日時の絞り込みに有効になるでしょう。一部ゼネコンはコンクリートの打設量予測システムを開発しており、同システムとも連携できれば、打設量や硬化までの時間を予測できるようになります。

 3D(3次元)データであるBIMは、3Dカメラやスキャナーを使ったVR(Virtual Reality:仮想現実)/AR(Augmented Reality:拡張現実)といったデジタル技術との連携が容易です。施工中の様子をVRコンテンツにし、BIMモデルと重ね合わせれば、遠隔から施工の不備を発見し工事の是正を指示できるようになります(図1)。特にスキャニング技術は進化が著しく、スマートフォンでも高精度でのスキャンが可能になっています。

図1:施工状況をスキャンしVR(仮想現実)コンテンツにすれば遠隔地からも確認が可能になる

 複雑な施工や、寸法誤差があることが事前に分かっている場所(わずかな傾斜があって図面と寸法が異なるなど)の施工においても、建材のBIMオブジェクトを仮想空間に配置すれば、施工箇所やレイアウトを確認できます(図2)。完成後には見えなくなる床下や天井、壁の内側の可視化も可能です。

図2:施工現場におけるスキャニングデータの活用例。上は家具のBIMオブジェクトを使いレイアウトを試している画面。下は設備機器の設置位置を確認するための画面

 また、たとえ現場での設計変更が発生しても、BIMモデルであれば、変更内容が関連するすべての全て箇所に反映されるため、後工程との整合性を保てます。2次元の図面を使った更新では、その反映に時間がかかり変更情報の共有が難しいケースが少なくありません。

 このように現場の3DデータをBIMと併用すれば、工事関係者全員が情報を共有し有機的につながれれば、建築トラブルを防止でき、より良い空間の創造につながるはずです。

ロボットと連携した自動化のためのデータ基盤にも

 現場の状況を示すデータの活用と並行して、ゼネコン各社が注力しているのが施工ロボットの開発です。就労者の高齢化や人手不足といった課題の解決と働き方の改革が背景にあります。すでに、石膏ボードの貼り付けや外装材の取り付けを担うロボットが開発済みですし、ロボット活用に向けたゼネコン横断型の業界団体として建設RXコンソーシアムが2021年9月に設立されてもいます。こうしたロボットの活用においてもBIMがデータ基盤になります。

 建設現場は一般に、建材を納入する車両が頻繁に出入りし、建材と技能工でごった返しています。届いた建材を施工場所ごとに振り分ける荷捌きや揚重(荷揚げ)作業も大きな負荷になります。

 資材の発注にBIMが活用され、ECで発注し、建材メーカーの出荷システムなどと連携できれば、例えば建材の出荷時に施工場所や施工日時などの情報を元に2次元バーコードなどを使って建材に貼り付けられます。その2次元コードを現場に待機するロボットが読み取り、荷捌きや荷揚げを実行すれば人手は不要です(表1)。24時間稼働のロボットなら、作業を夜間に実施し工事の前夜に終わらせることも可能になります。

表1:建設プロジェクトにBIMとロボットを活用した場合に期待できる効果
対象業務など人手BIM+ロボット
荷捌き目視2次元コードなどの識別で自動化
荷揚げ(揚重)配送路が大混雑
作業時間帯日中が基本夜間も可能に

 BIMを他のデータやシステム、あるいはロボットなどと連携させることで、工事の進ちょくを把握したり、工事が必要な場所を特定し遠隔から操作したり、ロボットが夜間に工事したりと、施工内容の品質確保や工期の短縮、省人化が進むことが期待できます。

 次回は、建設プロジェクトにおける維持管理プロセスのデジタル変革について説明します。

東 政宏(ひがし・まさひろ)

BIMobject Japan 代表取締役社長。1982年石川県生まれ。近畿大学理工学部卒業後、2005年野原産業入社。見積もりから現場施工までアナログ作業が多い建材販売の営業職を長く経験。その後、新製品拡販のWebマーケティングで実績を残す。2014年頃から建設業界のムリムダを解決するにはBIMが最適と実感し事業化を検討。2017年スウェーデンのBIMデータライブラリー企業とBIMobject Japanを設立し現職。2020年7月からは野原ホールディングスVDC事業開発部部長を兼務し、AI(人工知能)技術を使った図面積算サービス「TEMOTO」の開発や、3Dキャプチャー技術を持つ米Matterportの国内正規販売代理など、デジタル技術と現場経験を掛け合わせた次代の建設産業の構築を目指している。