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  • スマートシティを支えるBIMデータの基礎と価値

スマートシティに向けたBIMによる空間データの活用【第7回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2022年12月5日

前回まで、BIM(Building Information Modeling)モデル/データの活用が建設業界における業務プロセスに与えられる変革について説明してきました。その建設業が今、BIMを活用しながら取り組もうとしているテーマの1つにスマートシティがあります。今回は、スマートシティにおけるBIMの役割や活用事例を説明します。

 日本政府は今、成長戦略として「デジタル田園都市構想」を掲げ都市や地域のデジタル化を推進しようとしています。同構想の核になっているのがスマートシティや「Society 5.0」といった考え方です。

 スマートシティは、街や地域が抱える課題をデジタル技術を使って解決する考え方や取り組み(参考文献:内閣府の定義)。Society 5.0は、スマートシティの考え方を拡張し、サイバー空間とリアルな空間をデータを軸に融合するCPS(Cyber Physical System)を実現し、経済発展と社会的課題の解決を両立、すなわち持続可能な社会を作る考え方や取り組みです(参考文献:内閣府の定義)。

社会全体の最適化にデータを活かす

 街は、私たちが生きていくために必要な空間です。すぐに形成されるわけでも、なくなるわけでもありませんが、長期的に適切に維持・改善していかなければ廃れてしまいます。これまでは実際の街、つまり物質的な空間を対象に計画・整備してきましたが、物理的な制約により多くの時間を要してきました。スマートシティ/Society 5.0では、そこにデジタル技術を適用することで、街や地域が抱える課題を迅速かつ効果的に解決しようというわけです。

 さらに今後は、暮らしの空間(住まい)と仕事の空間(産業)とのつながりを考慮する必要性が高まっていくでしょう。ネット時代になり私たちは自宅に居ながらいろいろなサービスを受けられるようになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降は在宅勤務が増えるなど、暮らしの空間で仕事をする機会も増えています。住まいと産業を、どうつなげけていくかは重要な課題です。

 住まいと産業の2つの空間をつなぐのは、やはり「データ」です。Society 5.0では、そのプラットフォームとしてCPSあるいはIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の活用を挙げています。CPS/IoTにより、あらゆる情報を収集し、その分析結果を社会全体の最適化に活かすのです。

 これからの街や都市を考えるためにデータの活用が広がる中、そのデータの受け皿としてのデータベースになると期待できるのが、空間をデジタルで表現できるBIMです。BIMは、実空間を構成している最小単位の建材データ(=BIMオブジェクト)の集合体です 。空間条件をシミュレーションできるだけでなく、例えば、センサーデータを組み合わせれば、その空間に住まう人の動きなども同時に蓄積できます(第1回第2回参照)。

 建物や土地はこれまで、実際に工事をして初めて具体的な形になってきました。今後は、情報の収集・分析による検証やサーバー空間での仮想施工やシミュレーションにより、実際の工事の前に、街づくりに向けた判断が容易になるでしょう。

伝統産業・観光PRにデジタルを活用する京都府

 スマートシティで取り組む課題の1つに観光事業の拡大があります。海外からの観光客を呼び込むインバウンド事業の拡大も、コロナ禍で観光客が激減しており、withコロナ時代の施策の立案・実施が求められています。観光客の減少は、各地の伝統産業の持続性にも大きな痛手を与えています。

 京都府は、こうした観光業の活性化および伝統産業育成へのデジタル技術の活用に取り組む自治体の1つです。有形無形の文化資源をデジタル化し記録・保存するデジタルアーカイブ事業「京都デジタルミュージアム(2021年3月末に公開終了)」など、京都の歴史的・文化的特性を活かした事業に取り組んでいます。2020年10月には京都府の伝統工芸品をデジタルコンテンツプラットフォーム「bimobject.com」に掲載し、海外への情報発信も始めています(プレスリリース)。