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BIMで変わる建設プロセス(業界構造編)【第6回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2022年11月7日

第3回からBIMデータを使うことで、建築分野における業務プロセスがどのように変革できるのかについて説明してきました。今回は、こうした業務プロセスの変革が業界全体に与えるインパクトについて説明します。

 BIM(Building Information Modeling)は、空間と建物をデジタルで表現するための仕組みです。デジタル環境における建物全体や個室の建材情報などの集合体だと言えます。

 そのBIMを利用すれば、これまで説明してきたように、設計、資材調達、施工、維持管理の各プロセスが大きく変わっていきます。建設業界は、他の業界に比べ、アナログな手法がまだまだ多く残っており、業界構造や仕組みも長年大きくは変わってきませんでした。各プロセスが変われば、業界構造やプレーヤーのかかわり方も変わっていくはずです。

縦割りの多重下請け構造からフラットな横連携へ

 建設業界は多重下請け構造になっており、上流から下流にいくほど、各工程に関わる従事者が増えます(図1。関連記事、第3回)。工事の種類や工程の順番などに対し、決められた役割に基づいて“縦割り”で分業しているイメージです。特に工事においては、上流から言われたことをその通りに実施するのが慣例になっています。

図1:建設業界の事業プロセスと、それに関わる事業者

 建物の完成までには、多様な工事が発生し、それらが相互に関係し積み重なっています。建設に関わる情報は、下流に行くほど具体化し量も増えていきます。裏を返せば、時間の経過に伴い、仕様や工法を変更するためのコストが大きくなります。建設業において「プロセスマネジメントが重要」とされるのは、そのためです。加えて、情報が各所(各プロセス)に点在し、1つにまとまっていないこともコストを押し上げています(表1)。

表1:業過の縦割り構造が情報の点在化を招き下流工程の負荷を高めている
業界構造多重下請け、縦割り横連携、フラット
情報の所在点在。受け手によって情報量と内容に差がある集約。タイムラグなしに最新の情報をすべての関係者が共有
業務負荷のピークプロセスの後半(下流)。時間の経過に伴い変更コストが大きくなるプロセスの前半(上流)にシフト

 ここにBIMを導入すれば、まず情報のあり方が変わります。点在していた情報がBIMを通じて集約され可視化されます。BIMでは、ある情報を入力・変更すると関連する図面情報が自動更新されるなど、データ間の整合性を高く保てます。工事の種類や工程ごとに関わる専門業者の垣根を越えて、関係者間での情報共有が可能になります。

 次に、業務負荷のピークが上流工程にシフトする「フロントローディング」が実現します(第3回参照)。BIMオブジェクトには建材の仕様や識別コードが含まれています。これが、例えば、価格情報データベースと繋がれば、多重構造の建設プロジェクトにおいて、多くの関係者が労力を費やしている積算業務を軽減できます。BIMモデルを使って竣工までをシミュレーションすれば、上流工程である設計段階で建設プロジェクトの大半を決められるようにもなります。

 これらの総合的な結果として、次の2つの変化が考えられます。

変化1:プロセスマネジメントの最適化と利益配分の変化

 これまで予測が難しかったプロセスマネジメントに関わるリスク要素が少なくなることから、ゼネコンが担ってきたリスクヘッジ機能が縮小され、他の機能へ資源を分配できるようになります。

 利益分配にも変化が生じ、工事現場の最前線を支える作業員(技能工)に、より多く還元できるようになると期待できます。すべてがフロントローディングされ、現場が可視化できれば、ゼネコンに任せていた部分が少なくなり、サブコンや専門工事会社の役割や責任も明確になることで、ペイマスターである施主自らが判断できることが増えるからです。

変化2:設計段階からのメーカーの参入

 BIM導入によりフロントローディングが実現すれば、設計段階から、建材や設備、家具、家電など各種メーカーの参入が予想されます。

 例えば建材メーカーであれば、BIMを使った設計モデルに、いかに自社製品を盛り込めるかが、売上高や市場シェアを左右することになります。BIMは設計段階において、自社製品のスペックをデジタルに伝える営業ツールになるからです。そこでは営業活動自体の前倒しが必要になり、業務プロセスの見直しやデジタルに最適化した働き方が求められます。BIMが普及している海外の建設市場では、自社製品のBIMオブジェクトは建材メーカーにとって必須アイテムになっています。

 また自社製品のBIMオブジェクトを自社サイトまたはBIMコンテンツのプラットフォームに掲載すると、プレビュー数やダウンロード数といった客観的な数値から、顧客の動向や潜在的なニーズを知るヒントを得られるようにもなります。

 そのヒントを元に「顧客ニーズに応えるには、こうした製品が必要で、こんな売り方をすれば良い」といったことが分かり、そこから営業部やマーケティング部、商品開発部などが別々に動くのではなく、各部門が協働して動く必要があることも認知できます。BIMによる知の連携が、企業活動におけるプロセスの再構築をうながすのです。

 横断的なコラボレーションは、次のような利点をもたらすとされています。

①材料/設置の現場調整の改善
②最終建築物の全体的な品質/パフォーマンスの向上
③プロジェクト全体のスケジュール管理とコンプライアンスの向上
④プロジェクト全体のコスト管理と予算コンプライアンスの向上
⑤プロジェクト全体の安全性能の向上