- Column
- スマートシティを支えるBIMデータの基礎と価値
「建設×デジタル」で持続可能な社会に貢献する【第8回】
前回まで、建設業界におけるBIM(Building Information Modeling)活用が引き起こす変革について述べてきました。衣・食・住の「住」を支える建設は今後、より快適な暮らしの実現や、地球環境への配慮、SDGs(持続可能な開発目標)などに、どのように貢献できるのでしょうか。そのヒントは、建設にデジタル技術を掛け合わせる「建設×デジタル」にあります。
日本の建設業は、内需で独自の成長を遂げ、現在も世界第3位の建設投資額を誇っています。しかし、他業界がデジタル化を進め、その構造やプロセスを大きく変えようとしているのに比べ、建設業は長年、業界構造もプロセスもプレーヤーの役割分担も大きく変わってはいません。
結果、残念ながら建設業の生産性は、他業界に比べ非常に低いままです。若い世代にとって人気のない業界になっていくなかで、熟練者が持つノウハウや技術を伝承できず、後継者の確保・育成もままならないのが実状です。
進み始めた建設業界のデジタル化
ただ建設業界も最近は、こうした危機的状況から脱するために、生産性や働き方を改善する方法の1つとしてデジタル化に大きく舵を切り始めています。デジタル技術を活用することで、各種のシミュレーションや可視化、標準化、従事者のスキルの平準化などを進め、「人・モノ・金」の投入資源の最適化を図るのが狙いです。
特に、本連載で解説してきたように、BIM(Building Information Modeling)を使った仮想空間でのシミュレーションは、建設業に画期的な変化をもたらすと期待が高まっています。人が求める衣・食・住において、住(建物)だけは不可能だった「試しに建ててみる」「試しに住んでみる」などの先行体験・経験が可能になるからです。
その機能の一部を先取りした建物に野原ホールディングスの「モジュラーホスピタルルーム)」があります(図1)。コロナ禍で感染症の治療に必要な病室の確保が急務になるなかで、個室病室を短工期・低価格で建築できるパッケージ商品として2021年3月に発売しました(プレスリリース)。
モジュラーホスピタルルームは、内装や設備の9割が工場で完成するモジュラー方式を採用した個室病室です。基本となるBIMモデルがコンテンツプラットフォーム「bimobject.com」上に掲載されており、医療施設は、BIMを使って個室病室をつなげた全体像を確認しながら、専属の建設会社や設計事務所に設計・工事を依頼できます。
病院は都市には不可欠な建物です。しかし、病院、特に病室空間の建設は、建設費用や、プライベート空間の確保と治療・看護の両立の難しさといった課題を克服できないまま、過去30年間変化がありませんでした。モジュラーホスピタルルームによる個室病室は、従来工法に比べ工期・費用ともに約3割減らした設営が可能です。