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BIMで変わる建設プロセス(業界構造編)【第6回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2022年11月7日

企業の横展開や異業種参入も加速

 建設業界および建設関連企業での横展開が加速していけば次第に、建設業界という枠組みを超え、「住空間」という広いステージで各プレーヤーが連携していくのではないでしょうか。その変化を捉え、自らが変化していかなければ生き残れないかもしれません。並行して異業種からの新規参入も予想されます。

 金融業界の「FinTech(Financial + Technology)」や不動産業界の「PropTech(Property + Technology)/ReTech(Real estate + Technology)」などテクノロジーを活用するスタートアップ企業が誕生し各業界への新規参入が増えています。BIMの浸透は、建設業界にも同様の変革をもたらし「ConTech(Construction + Technology)」といった事業領域を拡大し、異業種連携なども進むでしょう。

 例えば2020年6月には、NTT東日本と飛島建設が「建設業界の活性化に向けたデジタルトランスフォーメーションの共創」を発表。同年7月にはNTTドコモが竹中工務店と「建築現場のデジタル変革に向けた共同検討」に合意しています。

 テクノロジー系企業の新規参入が最も活発な領域の1つにVR(Virtual Reality:仮想現実)技術を使った仮想内見があります。コロナ禍で非接触やオンラインでの営業展開が求められたのを背景に、マンションや戸建て住宅の間取りや内装をVRで確認できる仕組みの導入が増えています。

 住空間選びの主な場所だったこれまでは住宅展示場を対象にしたVR住宅展示場サービスも生まれています。2021年4月にハウスメーカーのスウェーデンハウスが公開した「VRモデルハウスウォークスルー」は、その一例です(図2)。

図2:スウェーデンハウスの「VRモデルハウスウォークスルー」では、モデルハウス室内をアバターを使って360度バーチャルで内覧できる

 VRモデルハウスウォークスルーは、内覧希望者がアバターを使ってモデルハウス内を360度バーチャルで内覧できるサービスです。2022年4月には、AI(人工知能)技術を使った音声ガイド機能も追加されました。

 ほかにも、住宅会社がそれぞれのモデルハウスを仮想に建築するVR展示場もあります。一般消費者は遠隔地からVRゴーグルを使って各モデルハウスを内覧します。

 いずれのVR展示場も現時点では、実在する住宅展示場を3D(3次元)カメラで撮影しVRコンテンツを作成するケースがほとんどです。しかし将来的には、BIMオブジェクトを使って完全な仮想住宅を実現することも技術的には可能になるでしょう。

 AR(Augmented Reality:拡張現実)技術を使って、実空間に購入したい家具を映しだしレイアウトを確認できるようにしたり、リフォーム後の内装を確認したりを可能にするサービスも増えています。AR/VR技術を活用した仕組みは今後、住空間の生活者への提案・営業活動を大きく変える可能性があります。

デジタル化によってニューノーマルを

 このようにBIMと関連するデジタル技術を使った動きは、建築に関わるプロセスを大きく変える可能性があります。

 例えば、寒冷地や酷暑地では、その気象条件から建設工事の時間帯や期間が限定されます。そこでBIMの設計情報にプレカットやプレキャストといった工法と組み合わせれば、工場で部材を生産し品質を確保しながら、建築現場での作業を軽減し工期を短縮できます。

 道路や土地の整備であれば、CIM(Construction Information Modeling)を使った計画時に気象情報を加味したシミュレーションを実施することで、より最適な期間に、より最適な設計・施工計画を持って計画を実行できます。これは現場作業員の安全にも寄与します。

 こうした変化は結果として住空間にも影響し、住空間の変容が人々の生活に新たな利便性や快適さを生み出すと期待できます。それはSDGs(持続可能な開発目標)の第11項目に挙げられる「住み続けられるまちづくり」へとつながっていくでしょう。

 ただし、すべてがデジタルや仮想空間に移行するわけではないことも忘れてはなりません。筆者らは、コロナ禍で隆盛したバーチャルイベントに何度も参加しましたが、バーチャルだけでは体験感が得られにくいことを肌で感じました。体験感には、リアルな空間を実際に訪れた、そのために移動したことや、費やす時間などの経験も含まれているからです。

 体験感を高めるには、バーチャルとリアルの両方を準備するハイブリッド手法の採用、もしくはバーチャルだけであっても、より体験感を得られるような工夫が必要です。

 デジタルの浸透により、従来のアナログ・デジタル、対面・非対面といった対比は、それぞれが別の価値を持つことになります。その「場」としての体験・経験価値は今後、より洗練され、人と建物、人と街との関係性に、さらなる変化をもたらすでしょう。

 次回は、街やスマートシティなどを対象にしたBIMの活用価値について説明します。

東 政宏(ひがし・まさひろ)

BIMobject Japan 代表取締役社長。1982年石川県生まれ。近畿大学理工学部卒業後、2005年野原産業入社。見積もりから現場施工までアナログ作業が多い建材販売の営業職を長く経験。その後、新製品拡販のWebマーケティングで実績を残す。2014年頃から建設業界のムリムダを解決するにはBIMが最適と実感し事業化を検討。2017年スウェーデンのBIMデータライブラリー企業とBIMobject Japanを設立し現職。2020年7月からは野原ホールディングスVDC事業開発部部長を兼務し、AI(人工知能)技術を使った図面積算サービス「TEMOTO」の開発や、3Dキャプチャー技術を持つ米Matterportの国内正規販売代理など、デジタル技術と現場経験を掛け合わせた次代の建設産業の構築を目指している。