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- スマートシティを支えるBIMデータの基礎と価値
スマートシティに向けたBIMによる空間データの活用【第7回】
さらに2021年2月からは、京都の街並みをXR(Extended reality:VR・AR・MRなどのデジタル現実技術の総称)空間に再現する「京きもの語り」を立ち上げています(図1)。京都府と、西陣織・丹後織物・京友禅の各組合からなる京都染織産業XR推進コンソーシアムが開発しました。
京きもの語りでは、京都風の街並みをCG(コンピューターグラフィックス)で表現した仮想空間です。見覚えのある京都の街並みをできる限りリアルに再現するためにBIMデータやゲームエンジンを活用し、仮想空間での経験感を高めています。その中で京都の伝統工芸の1つである着物を、その繊細さを損なうことなく高品質な映像で表示することで着物の世界に入り込んでもらうという狙いがあります(図2)。
工房などの作業風景も再現し、経験感の高い仮想空間を通じて染織産業の伝統手技や文化を、特に若い世代に伝えるという目的もあります(図3)。当社は以前から、BIMなどのデジタル技術を使って日本の優れた文化を世界に届けたいと考えてきました。京きもの語りは、着物という日本文化を発信することで、伝統産業の持続可能性の向上と、移動制限下での新たなコミュニケーション手段の提供を両立する試みと言えるでしょう。
社会インフラのデジタルセットとしてのBIMの価値
BIMの「M」は「Modeling(モデル化)」を指すのが一般的です。BIMのモデル化では、従来は2次元だった図面を3次元の立体モデルを作るというイメージが強いですが、本来は、あるデータに対し色々な側面からの意味を1つひとつ追加し、人間やコンピューターにとって、その形状以上の有益な情報に変換していくプロセスです。
しかし最近は、BIMの「M」をモデリングの先にある「Management(マネジメント)」のニュアンスで用いる場面が増えています。モデル化して終わりではなく、モデル化により様々な意味が付与されたBIMの「I」である「Information(情報)」にAI(人工知能)技術などを適用することで、その情報をどのように扱うのかが大事になってきています。
BIMが普及することで、社会インフラのデジタルセットが整備できます。BIMをベースに、サイバー空間と実空間を融合させるCPSが構築され、Society 5.0につながっていく。そして、建物(空間)を軸に多くの業界(家電、家具、医療等)がデータでつながっていき、最終的には私たちの生活もつながっていく。業界ごとの市場ではなく、一括りの市場(=暮らしの空間)の中に、全部がつながっていくイメージです。
現在、さまざまな業界がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでおり、その課程で異業種間連携が強化され、複数の業界から集まった企業が1つの取り組みを進めるケースも増えています。業界の境目は今後、どんどん薄れていくでしょう。
さらに、BIMを媒介に、建物や住まいという空間にIoT家電などのデジタル機器がつながっていきます。結果、室温や日射量、住民の動線などの生活データまでもBIMモデルに蓄積されていきます。私たちは、よりカスタマイズされたサービスを受けられるようになり、より便利な暮らしが実現されると期待できます。
その意味でBIMは、建設プロジェクトに関わるデータのモデリングにとどまらず、ビジネスやプロジェクトが持つ目的の達成や、社会課題の解決に向けたヒントを得るために利用すべきです。
東 政宏(ひがし・まさひろ)
BIMobject Japan 代表取締役社長。1982年石川県生まれ。近畿大学理工学部卒業後、2005年野原産業入社。見積もりから現場施工までアナログ作業が多い建材販売の営業職を長く経験。その後、新製品拡販のWebマーケティングで実績を残す。2014年頃から建設業界のムリムダを解決するにはBIMが最適と実感し事業化を検討。2017年スウェーデンのBIMデータライブラリー企業とBIMobject Japanを設立し現職。2020年7月からは野原ホールディングスVDC事業開発部部長を兼務し、AI(人工知能)技術を使った図面積算サービス「TEMOTO」の開発や、3Dキャプチャー技術を持つ米Matterportの国内正規販売代理など、デジタル技術と現場経験を掛け合わせた次代の建設産業の構築を目指している。