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次世代健康医療記録システムの現在地、NeXEHRS-PLAneTsが指し示す整備の方向性

「メディカルDX・ヘルステックフォーラム 2022」より、TISの名田 茂 氏

DIGITAL X 編集部
2022年11月24日

医療情報の活用に向けては情報の適切な管理が欠かせない。そのために患者と医療機関の双方がアクセスできる永続的なデータ保管の仕組みの整備に取り組んでいるのが「NeXEHRS(次世代健康医療記録システム)コンソーシアム」である。その参照実装である「NeXEHRS-PLAneTs」の開発を担うTISのDXビジネスユニット ヘルスケアサービスユニットの名田 茂 氏が2022年8月27日に開催された「メディカルDX・ヘルステックフォーラム2022」(主催:メディカルDX・ヘルステックフォーラム実行委員会)に登壇し、NeXEHRSの取り組み状況を解説した。

 医療情報に対して、患者と医療機関の双方がアクセスできる永続的なデータ保管の仕組みはできないか――。この課題意識のもと2020年に発足したのが「NeXEHRSコンソーシアム」である。次世代電子カルテシステムの共通プラットフォームを構築するために日本医療情報学会が立ち上げた「NeXEHRS共通プラットフォーム研究会」を前身に、通常正会員30名と賛助会員44名が参加する。

写真1:NeXEHRS-PLATの開発に携わるTISのDXビジネスユニット ヘルスケアサービスユニットの名田 茂 氏

医療情報を本人が管理し医療従事者と共有できる環境の実現を目指す

 医療情報の理想的なデータ保管に向けて NeXEHRSコンソーシアムは3つのコンセプトを掲げている。(1)個人の健康情報を医療提供機関単位でなく本人単位で記録し、そのコピーを本人主体で管理する「本人主体管理」、(2)本人が明示的に拒否する場合を除き、医療時に医療情報を共有する「本人・医療情報者間での情報共有」、(3)より良い医療開発を通じ他の患者への診療への貢献に向け、仮名化した医療情報を安全に二次利用する「自他共栄」だ。

 その実現に向けた方針が「PAi-BiCS」である。PAi-BiCSは、「P:Patient and Public Involvement(患者・市民参加)」「Ai:AI、Automation、IoT」「Bi:BigData」「C:Cloud」「S:Standard」の5つの方針からなっている。

ソフトバンクとTISのタッグでNeXEHRS-PLATを開発

 NeXEHRSコンソーシアムではこれまでに、共通プラットフォームの指針や規格である「NeXEHRS PLAN」を策定。NeXEHRS PLANに準拠するかたちで、共通プラットフォーム「NeXEHRS-PLAT」や、それに対応する電子カルテなどの開発を進めている。

 「NeXEHRS-PLATは東京大学の大江 和彦 教授の発案を受け、2020年から社会実装やリファレンス化、それらのための基礎の構築が始まりました。現在は参照実装となる『NeXEHRS-PLAneTs』が共有されるまでになっています」と語るのは、TISのDXビジネスユニット ヘルスケアサービスユニット ヘルスケアサービス企画部でエキスパートを務める名田茂氏だ。TISはソフトバンクと共にNeXEHRS-PLATとその参照実装の開発に当たっている(図1)。

図1:NeXEHRS-PLAneTsとは(出所:第1回NeXEHRSシンポジウム資料)

 NeXEHRS-PLAneTsの開発において、ソフトバンクは企画を、TISは設計と実装をそれぞれ担当した。そこでのソフトバンクは、クラウドや通信などの「コミュニケーション」、定型業務の自動化などの「オートメーション」、ビッグデータを活用した「マーケティング」、ネットワークやクラウドでの「セキュリティ」という4つの基盤に対するノウハウを提供した。

 一方のTISは、ヘルスケア領域においてプラットフォームの整備に早期から取り組んできた経験から、「ウェルビーイング(幸福)の実現に向けた産官学連携によるエコシステム形成や、医療機関や製薬会社、保険会社など事業者の支援における知見を活かしました」(名田氏)という 。

ハイブリッド構成で院内外からの医療情報アクセスを厳密に制御

 NeXEHRS-PLAneTsでは、医療機関や患者からのアクセスをアクセス制御用サーバーで制御しつつ、記名型データの記録をFHIRサーバー(OpenFRUCtoS)で実現する。医療機関内に設けるローカル環境と、院外のリモート環境を組み合わせたハイブリッド構成が取れるようになっている(図2)。災害時などに備え、ローカル環境とリモート環境間でデータを同期する仕組みも用意する。

図2:NeXEHRS PLANの参照実装 NeXEHRS-PLAneTsの構成。NeXEHRSコンソーシアムの会員に向けて開発指針を示すとともに、NeXEHRS構想がもたらす価値を立証する

 ソフトバンクとTISは近く、 NeXEHRS-PLAneTsの全体構成やセットアップ手順、 API(アプリ ケーション・プロ グラミング・インタフェース)仕様などを取りまとめたドキュメントを「プログラムのソースコードなどを共有するためのWebサービス『GitHub』上に公開する計画」(名田氏)である。同時に評価版のバイナリーコードをNeXEHRSコンソーシアムの公式サイトからダウンロード可能にするという。

 GitHubに公開するドキュメントでは、NeXEHRS-PLAneTsの詳細構成のほか、認証基盤で発行したトークンを基に認可機能を提供する「plat-gateway」、APIを提供する「plat-api」、NeXEHRS-PLATをローカルとリモート間で連携するためのメッセージ処理を実行する「plat-mq」などの詳細が把握できるとしている。

コンソーシアムに参加し貴重な情報の収集を

 このように共通プラットフォームの立ち上げを進めるNeXEHRSコンソーシアムだが、同コンソーシアムに参加することのメリットとして名田氏は次の3つを挙げる。

 「第1は、NeXEHRSの実現に不可欠な共通プラットフォームの技術的な指針や規格、仕様などの検討・策定に参加できること。第2は、会員向けセミナーや勉強会に参加できること。そして第3は、部会での活動などを通じてヘルスケア領域で強みを持つ医療現場やアカデミアの専門家、ソフトウエア/ハードウエアのベンダーとの連携機会を得られること」

 なかでも、「これから立ち上がるNeXEHRSそのものの情報は、まだ検討中の段階にあり、現状、そう多くはありません。しかし、コンソーシアムへの参加で得られる知見やベンダーとの連携機会は今後の活用において極めて有益です」と名田氏は強調する。

 TISとしては今後もヘルスケア領域のプラットフォームを拡張し、個人情報の保護とセキュリティが確保された医療・健康情報を、患者や市民がそれぞれの医療や健康管理のために利用している社会の実現を目指す。それにより「健康寿命延伸」という社会課題の解決に貢献していきたい考えだ。

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