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  • 医療と健康を支えるデジタル活用の最前線

医療・ヘルスケアデータの活用には個人のワクワク感や利便性の実感が必要

「メディカルDX・ヘルステックフォーラム 2022」パネルディスカッションより

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2023年2月22日

医療・ヘルスケア領域におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の未来は、どのように描けるのだろうか。2022年8月に開催された「メディカルDX・ヘルステックフォーラム2022」(主催:メディカルDX・ヘルステックフォーラム実行委員会)の登壇者らが、医療・ヘルスケア領域でのDXの課題と、これからについてのパネルディスカッションに参加した。モデレーターは、経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課の藤岡 雅美 総括補佐が務めた。(文中敬称略)

──医療の未来のために現在、どのようなアクションを起こされていますか。

宮田 俊男(以下、宮田) :医療法人社団DEN理事長で早稲田大学理工学術院教授の宮田 俊男です。現在はクリニックを立ち上げ、医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。PHR(Personal Health Record:個人健康情報記録)などのデータ利活用への取り組みや、ヨガやサプリメントを使ったヘルスケアサービスによる健康予防や未病に関するエビデンス海外への発信が重要だと考えています。

写真1:医療法人社団DEN理事長/早稲田大学理工学術院教授の宮田 俊男 氏

 私は2009年に厚生労働省に入省し、各種制度を作ってきました。ただクリニックの現場でデータ活用を進める中で、制度と現場にはかい離があると感じるようになりました。そのかい離を埋めるような仕組みの実現を期待しています。

石見 拓(以下、石見) :京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 予防医療学分野教授の石見 拓です。2019年に良質なPHRを広めるために「PHR普及推進協議会」を立ち上げました。

写真2:京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 予防医療学分野教授の石見 拓 氏

 同協議会では、PHRの将来像として「個人や組織がバラバラに保有している健康・医療情報を、生涯にわたって個人が保有し自分の意思で活用する」という姿を描いています。その一環として、PHRサービス間などでのデータ交換を容易にするための規格となる「PHR標準データ交換規格」の策定を進めています。

藤田 卓仙(以下、藤田) :慶應義塾大学 医学部特任准教授の藤田 卓仙です。兼任で、いわゆるダボス会議を主催する世界経済フォーラムの第4次産業革命日本センター(C4IRJ)で、ヘルスケアデータのプロジェクト長を務めています。

写真3:慶應義塾大学 医学部特任准教授の藤田 卓仙 氏

 C4IRJでは海外に向けて、ヘルスケア領域におけるデータの取り扱いを円滑にするための活動や、プライバシー保護の提案に取り組んでいます。国内外のコミュニティと連携したり、データ活用のための「PHR・ヘルスケアデータ活用原則ツールキット」を作成したりしています。自治体との実証実験にも取り組んでおり、例えば長野県茅野市の実証では医療DXのアドバイザーとして協力しています。

 医療情報の活用には、本人の保護や現場業務の負担など、さまざまな課題があります。これらを解決するには、現在議論されている「医療情報基本法」や「特別法」が必要です。そこを一歩踏み出すことを応援したいと考えています。

水島 洋(以下、水島) :ITヘルスケア学会 理事の水島 洋です。2011年から国立保健医療科学院に所属し、難病や稀少疾患の国際連携などに従事しています。

写真4:ITヘルスケア学会理事の水島 洋 氏

 これまでに、WHO(世界保健機関)がまとめた「ICD-11国際疾病分類(第11版)」の国内導入やPHRの普及、ブロックチェーン技術の研究などに関わってきました。医療DXを進めるためには、健診データや介護情報などと連携しながら、それらを個人自らが管理できるインフラの実現が最も大事だと考えています。