- Column
- 医療と健康を支えるデジタル活用の最前線
オンライン診療を起爆剤に産官学が連携する医療DXが進む
「メディカルDX・ヘルステックフォーラム 2022」より、医療法人社団DEN 理事長の宮田 俊男 氏
セルフメディケーションアプリ「健こんぱす」を開発
さらにみいクリニックでは、セルフメディケーションのためのスマートフォン用アプリケーション「健こんぱす』を開発し、2017年からサービスを開始している(図2)。薬剤師と連携し症状に応じた製品を見つけたり、重篤な症状が疑われる場合には医療機関との連携を支援したりする。
健こんぱすを使えば患者は、不安や悩みを医師に無料で相談でき、そこからオンライン診療や対面診療に切り替えることができる。高齢者であれば在宅医療へとつなげられる。逆に若年層の健康意識を高めるために「健こんぱすfor子育てママ」というインスタグラムを立ち上げ、子育て応援を中心としたコンテンツや医師が監修した記事などを投稿している。
宮田氏は、「こうしたプラットフォームがオンライン診療を含めた医療DXに大きな役割を果たすと考えています」と期待を寄せる。健こんぱすのダウンロード数は、コロナ禍以降、問い合わせ件数の増加とともに増え、2020年8月末には直近の半年間で倍増し2万1219件に達した。
オンライン診療は産業として発展していく起爆材にもなる
オンライン診療については規制緩和も進んだ。しかし宮田氏は、「まだ課題があります」と指摘する。「不適正な薬剤処方などが頻発すれば制限する動きも出てきてしまいます。医療関係者と患者とが共にオンライン診療を適切に利用していくことが重要です。患者側のセルフケアリテラシーも高める必要があります」(同)
将来的には、センサーやモニター技術を活用し、SpO2(パルスオキシメーターの測定値)を含むバイタルサインの測定や、心音、呼吸音の聴取などが遠隔からリアルタイムでできるようになれば、オンライン診療の質的向上も期待できるという。
今後は、「対面診療とオンライン診療を組み合わせ、医療の質と効率を両立させる時代が到来することが期待される」と宮田氏はみる。検体の自宅や職場での採取、AI(人工知能)技術やデータ連携の活用、個人の医療情報PHR(Personal Health Record)などを、より活用していくことになる。例えば英バビロンヘルスでは、症状を見極めるトリアージにAI技術を適用し、セルフケアかオンライン診療かを振り分けている(図3)。
みいクリニックでは、鹿児島県奄美市と東京のクリニックをネットワークで結んだ診療を始めている。そこでは、東京のクリニックの医師が奄美大島を訪問し、オンラインと対面を組み合わせながら、高齢者との継続的な関係を築こうとしている。PHRアプリや健康管理アプリなどの活用も支援する。
宮田氏は、「今後は、オープンイノベーション(協業)を進めるためのリーダーシップが重要になってきます。グローバルな目線と、医薬品などの安全性確保に向けた科学的方策を研究するレギュラトリーサイエンスの意識を持つことも重要です。適切な法規制やメディア戦略も必要になります。そのうえで、産官学それぞれの意識と目的の違いを認識することが重要です。オンライン診療は、医療だけでなく、産業として発展するための“起爆材”になるでしょう」と展望を語る。