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  • 医療と健康を支えるデジタル活用の最前線

医療・ヘルスケアのデジタル化には個人医療データ「PHR」の有効活用が不可欠

「メディカルDX・ヘルステックフォーラム 2022」より、東北大学の中山 雅晴 氏と昭和大学の中村 明央 氏

ANDG CO., LTD.
2022年12月12日

患者自身が診療・健康情報を管理できる昭和大の次世代PHR「WAKARTE」

 そのFHIRに対応した次世代PHR管理用のスマートフォン用アプリケ−ション「WAKARTE」を開発しているのが昭和大学だ。同大学 総合情報管理センター長の中村 明央 教授は、「『カルテは患者のものである』という基本概念のもとWAKARTEを開発してきました。加えて昭和大学には『電子カルテと外部連携を一切してはならない』という基本方針があります。」と説明する(写真2)。

写真2:昭和大学 総合情報管理センター長 教授 の中村 明央 氏

 WAKARTE開発のきっかけは、中村氏が数年前に出席したある会合で「東日本大震災で歯科治療データがなくなってしまい、私が、どのような治療を受けてきたが分からなくなってしまった」という話を聞いたことである。そこから中村氏は「診療内容を患者自身が持ち、自ら管理でき、どこでも見せられる仕組みをスマートフォンに持たせることで、インターネットがあれば世界中どこからでも自分の情報を提供できる世界を作りたいと考えました」と話す。

 WAKARTEは患者自身がデータを管理するスマホアプリである(図2)。昭和大学は、電子カルテシステムで管理している医療情報を、その機密性を守りながらFHIR形式で患者に提供する。

 まず患者はQRコードを使って、電子カルテシステムのIDと自分のスマホを1対1に紐付けて登録する。次に、IC診察券を利用した二要素認証を経て、Bluetooth通信により電子カルテシステムから医療情報を安全にスマホに取り込む。クリニックなどの医療情報はPDFや画像により提供を受ける。患者自身が持っているデータもカメラで撮影し画像情報として取り込める。

図2:電子カルテのデータをFHIRで受け取る「WAKARTE」では、患者自身の意思でデータの参照や活用が選択できる

 スマホに取り込んだ医療情報に対し患者は、クラウドにアップロードするかどうかを選択できる。クラウドにアップロードした情報は、患者自身を介したQRコード認証により、病院のほか、介護施設や民間の健康関連サービス会社などとも共有・活用できるようになる。家族とも医療関連情報を共有できる。中村氏は「あくまでも“患者自らの意志”で情報の参照やアップロードによる第三者活用が可能になることが重要です」と強調する。

 クラウド上の情報は、患者が登録しているメールアドレスや郵便番号をキーにした分析も可能だ。検診記録や日常の健康状態、ワクチン接種歴などが分かる。災害時のカルテとして、将来的にはスマホカルテやオンライン診療にも活用できると考える。中村氏は、「医療のみならず、健康の増進や未病・余病にも貢献できると思っています」と期待を寄せる。

 将来の電子カルテの活用に関する意見を中村氏は、自身が手掛ける社会人向けのオンライン講義「リカレントカレッジ」で募集している。これまでに「5年後にどんなカルテを望むか」という問いには、「スマホで自分の情報が見られることが重要だ」とする意見があったという。WAKARTEなどPHRを運営する資金については「行政や企業スポンサー、患者への課金など」が挙がっている。

 解決すべき課題も少なくないPHRの活用に対し中村氏は、「オンライン診療や災害対策への活用など、将来的には大きなメリットが得られると思う。これからも探求を続けるので興味を持った方はぜひご一緒いただきたい」と呼びかけた。