• Column
  • データドリブン経営に向けたERP再入門

AIがERPによるデータドリブン経営の民主化を加速【第5回】

船橋 直樹(日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部)
2024年3月12日

生成AIがデータドリブン経営の民主化を加速

 ERPシステムにおけるデータ活用は現状、システム内に蓄積されたデータを可視化し定期的にレポートをまとめるだけという利用企業が、まだまだ多いように見受けられる。そこから一歩も二歩も踏み込み、全社を網羅した複合的な視点でさまざまなKPIの相関関係をデータから導き出せれば、「何を改善するために何に取り組むのか」「何に投資するのか」などを明確な根拠をもって判断できるようになる。ERPとAIの組み合わせは、データドリブン経営の民主化を進めるはずだ。

 生成AI技術の登場は、そうした傾向を、さらに加速しつつある。テキストや画像の意図を理解し、非財務情報など定性的な情報を含め、より網羅的かつ高度なデータ分析によって最適解を導き出すということも非現実的な話ではない。

 一部では、利用者の業務上の立場や文脈に沿って、より効果的かつダイレクトに意思決定や業務改善につながるレポートを作成したり、プロジェクトの立ち上げ時に事業上の狙いとともにリソースや財務の現状を把握した上で計画を自動生成したりという世界が現実になろうとしている(図2)。生成AIは、データドリブン経営をさらに高度にしながらも、より身近なものにもしてくれるだろう。

図2:ERPシステムが持つデータの活用領域での生成AI(人工知能)技術による生産性向上支援が進む。図は「Oracle Fusion Cloud Applications」での例

 ERPとAIの組み合わせによるメリットをしっかりと享受するためには、データドリブンなカルチャーの醸成も重要な課題になる。そのカルチャーを端的に表現すれば、「データを信頼できる情報源として意思決定する方針を定める」ということだ。データを見て実態と乖離していると感じた際、それを説明するためにデータを基に違和感の裏付けを特定することが当たり前になれば、立派なデータドリブン企業だと言える。

 そうしたカルチャーを作り上げるにはこれまで、データから仮説を導き出し、データを分析し検証しながらビジネスを改善していける人材の採用や育成が必要だった。それが多くの企業にとって高いハードルになることは否めない。だが、そうした状況も生成AI技術の活用で変わる可能性が高い。

 データ活用のためのインタフェースが生成AIのプロンプトになり、利用者自らが自然言語を使って質問やリクエストを入力すれば、AI技術がさまざまなデータからインサイトを整理・アウトプットする世界が現実になりつつある。データを理解して意思決定しようとする最低限のリテラシーがあれば、データサイエンスのための高度なナレッジやデータ加工技術がなくても、データドリブン経営に取り組めるようになる。

既に企業の44%がイノベーションのアイデア創出にAI技術を利用

 米ボストンコンサルティンググループのレポートによれば、グローバル市場では既に44%の企業がイノベーションのアイデア創出のプロセスにAI技術を導入している。そのうちの約70%は既に、さまざまな実証実験にも取り組んでいる。具体的には、イノベーションのための市場トレンドの分析、事業ポートフォリオの優先順位づけ、外部イノベーションパートナーの選定、新しいイノベーションで活用すべきテクノロジーの分析などのユースケースが挙げられるという。

 ここうした取り組みにおいても、ERPシステムのような企業内に横断的・一元的なデータ基盤を活用し、外部データと組み合わせながら意思決定の根拠を探索していくことが、これからのデータドリブン経営のあるべき姿ではないだろうか。

 本連載ではこれまで、マクロ環境やテクノロジートレンドの変化を踏まえながら、企業経営にERPを活用することの必要性と重要性などを網羅的に解説してきた。次回は、ERPのメリットを享受するための留意点を改めて考えてみたい。

船橋 直樹(ふなばし・なおき)

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部 事業開発部