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  • データドリブン経営に向けたERP再入門

AIがERPによるデータドリブン経営の民主化を加速【第5回】

船橋 直樹(日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部)
2024年3月12日

2023年、IT市場の話題は、生成AI(人工知能)技術に始まり生成AI技術に終わったと言っても過言ではない。その影響は広く社会に波及し、さまざまな課題のブレークスルーになる兆しを見せている。エンタープライズIT市場でも2024年は、生成AI技術が実装されたサービスの一般提供が活発になり「エンタープライズ生成AI元年」になるとの見方がある。生成AIを含むAI技術はERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)をどのように進化させるのだろうか。

 この連載では、ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システムが利用企業にもたらす価値を解説してきた。ERPシステムの導入により、業務の標準化を進めやすくなり、標準化により業務手順を明確に定義することで、業務プロセスを誰もが理解可能な形で可視化できる。結果、業務効率やガバナンスの向上、業務品質の均一化が期待できるほか、業務の属人化も抑止できる。

 ERPシステムが提供する世界標準のベストプラクティスに基づいたビジネスプロセスのテンプレート(ひな形)を利用することで、新しいビジネスモデルへの対応力を高められる。近年では、多層防御によるデータ中心のセキュリティ機能の提供など、サイバーセキュリティの観点でもERPシステムを利用するメリットがある。

KPIの複雑な相関関係をAI技術で解き明かす

 AIは、大量のデータを学習してパターンを識別し、そこから適切な答えや推論を導き出すための技術である。ERPシステムの価値をさらに高める可能性を秘めている。例えば、経費の支出パターンから不正を検知したり、取引の仕訳の際に正しい勘定科目を提案したり、自動設定したりが可能になる。統計学的なデータ分析機能を、繰り返し作業の自動化・効率化や不正/エラーの防止に役立てる。

 経営層に近い層での意思決定にもAI技術は大きなメリットを提供できる。本連載では、現代のビジネスは複雑で、ビジネスに影響を与える要素がどんどん増える中、それら要素を網羅的に加味した「複合型の意思決定」が重要だと説いてきた。そのためには、全社の情報を統合的に管理できるERPシステムが持つデータを活用し、正確な現状把握とインサイトの下、さまざまなKPI(重要業績評価指標)の相関関係を分析し、ビジネスのための最適解を導くアプローチが有効である。このERPシステムにおけるデータ活用をAI技術は強力に支援できるはずだ(図1)。

図1:ERPシステムなどへのAI(人工知能)技術の搭載が進む。図は「Oracle Fusion Cloud Applications」での組み込み例

 例えば、業績を押し上げている要素は何か、資金繰りのボトルネックになっている要素は何かなどの分析では、関連するKPIが数種類であれば、人力でもなんとか相関関係を突き止められるかもしれない。しかし現実のビジネスには、さまざまな要素があり、KPIの相関関係も複雑だ。事業部横断で強い相関関係を持つ場合もあれば、特定のKPIのパラメーターが大きく変化しても短期にはインパクトがないにも関わらず、中長期では、その影響が表れてくるという場合もある。

 パラメーターが増えれば増えるほど、その組み合わせは指数関数的に増え、どのKPIに、どのパラメーターが、どう影響しているのかの分析は難しくなる。そこにAI技術を適用すれば、組み合わせパターンが数万、数億といった単位に増えても、求めるインサイトを導き出せるだろう。