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  • データドリブン経営に向けたERP再入門

資本効率・経営価値を高めるにはERPを基点にしたデータ活用が重要に【第4回】

東 裕紀央、船橋 直樹(日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業戦略本部)
2024年2月13日

「DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質はデータ活用にある」や「データドリブン経営が重要だ」という指摘が頻繁に聞かれるようになった。しかしデータ活用の対象範囲は幅広く、その重要性や具体的な手法を高い解像度でイメージできる人はそう多くないのではないか。今回は、ERPの文脈でデータ活用がなぜ重要なのか、データ活用にあたって留意すべきポイントは何かを解説する。

 生産性向上や業績拡大、新事業の創出など、非常に幅広い課題に対しデータ活用型のアプローチが浸透し始めている。だがERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)が担うのは「経営を支援するためのデータ活用」だと言える。より具体的には「組織横断の業務やプロセスを可視化し、さまざまな要素を加味した『複合型の意思決定』(≒全体最適、第1回参照)に生かす」という機能である。

正確な現状把握と洞察を基にリソース配分の無駄をなくす

 経営者が“勘と経験”で意思決定するスタイルであっても、問題が起きづらい単純なビジネスは存在する。しかし、本連載でたびたび触れているように、多くの業種において企業の経営環境の変化は加速傾向にある。グローバルなサプライチェーンを取り巻く課題は多岐にわたるし、テクノロジーの進化がディスラプター(破壊者)を生み競争は激化している。ここに製品や市場の特性などが複雑に絡み合い、ビジネスの本質的な課題を把握することが年々難しくなっている。

 そうした課題の解決策になり得るのがERPの仕組みである。全社のデータを統合的に管理する形でERPが持つデータを活用すれば、全体最適の視点を持った正確な現状把握と洞察が可能になる。根拠に基づいて戦略の正しさを検証したり、ボトルネックを分析・把握したりしたうえで、無駄のないリソース配分を実現できる(図1)。

図1:企業情報を一元的に管理し連携を図ることで全体最適化を推進できる

 日本のある食品メーカーの取り組み例を紹介する。同社は、原料の調達から生産・加工、販売までの垂直統合型バリューチェーンを構築している。だが既存システムは業務ごとにバラバラで、「儲かってはいるが、その要因やリスクを詳細かつ正確に分析できない」という課題を抱えていた。ここに最新のERPシステムを導入することで、サプライチェーン全体を横断したデータ管理を実現するとともにリアルタイムに活用できる環境を整えることで、事業環境の変化への対応力を強化しようとしている。

 ただ、こうした取り組みを始めている日本企業は限定的だ。日本におけるデータ活用は、まだまだ現場主導の色が濃い。ネガティブに捉えれば、組織が階層化され、部門も機能別に分断されており、データが現場でしか活用されていないケースが少なくない。

 例えば、部品の故障率や在庫の不足といったデータも、担当部門が業務改善のために活用するだけでなく、経営層が顧客満足度などの指標と掛け合わせて、より俯瞰した視点で分析し意思決定に生かせれば、企業全体の成長が促進される。

 経営管理におけるデータ活用という観点でもERPの考え方は不可欠だ。近年、ROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)、ROE(Return On Equity:自己資本利益率)を重視したり人的資本経営に取り組んだりと、無形資本を含めて資本効率を上げて企業価値を高めようとする経営スタイルが浸透しつつある。

 こうした取り組みを進める場合、経営者は売り上げや利益だけを見ていても、そこには投下資本が反映されていないため、最適な経営資源配分ができているのかどうかを把握できず、投資に対するPDCAを回せない。しかしERPなら、会計から調達、在庫、サプライチェーン、人事までを横断的に、共通した定義と一貫した基準でデータを収集・集約でき、必要なデータをそろえられる。