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新規業務にこそ生成AIが有効、人材育成も利用しリープフロッグを起こせ

「DIGITAL X DAY 2023 Winter」より、住友生命保険の岸 和良 氏

森 英信(アンジー)
2024年2月9日

ウェルビーイングに焦点当てる「WaaS構想」でも生成AIを活用

 新規事業として住友生命は、加入者の健康増進をうながす形の保険商品「Vitality」を展開する。加入者が、ウェアラブル端末を使って歩数を記録したり脈拍を測ったり、あるいはアンケートや健診結果を入力したりすると、それら活動に対しポイントを付与し、そのポイントに応じて保険料を割り引く。2018年の販売開始からの5年間で累計150万件超の契約を得た。

 最近は、保険加入を伴わない健康増進サービス「Vitalityスマート」も開始した。健康診断書のほか、活動量計や体組成計などで得られるデータを本人の同意を得て収集/分析することで、健康増進に向けたアドバイスや健診結果に基づく疾病リスクの通知などを返す。住友生命は「こうした顧客データを活用し顧客価値を高めるモデルを構築し実施している」(岸氏)。「Vitality加入者は体を動かす意欲が高いため、非加入者に比べて死亡率や入院率が低いというデータもある」(同)という。

 Vitality/同スマートの提供により顧客の生活習慣に良い変化が訪れていることから住友生命は、ウェルビーイング(Wellbeing:幸福感)につなげたいと考えている。そこで経営計画「住友生命グループVision2030」では、ウェルビーイングのためのサービスを提供する「WaaS(Well-being as a Service)構想」を打ち出した。

 WaaS構想では、非保険サービスの領域を拡大し、健康美容、資産運用、教育などの被保険サービスを拡大し、顧客のウェルビーイングをさらに高めたい考えで、「顧客基盤を2000万人にまで拡大したい。うちVitalit/同スマートで500万人の顧客獲得を目標にする」(岸氏)

 WaaS構想をはじめデジタル&データ領域では生成AIの活用を始めている。社内の既存業務では、文章要約や翻訳、議事録作成など業務効率を高めるために利用。社外に向けた既存業務では、商品チラシやパンフレットの作成、デジタル手続き、Webサイトやスートフォン用アプリケーションの構築のほか、「Vitalityの価値を増大するためのサービスやコンタクトセンターなどの運営に利用している」と岸氏は説明する。

 社内データへの生成AI技術の適用に向けては現在、「システム環境を構築している段階」(岸氏)にある。先行して、「社外に公開しているデータや、当社の商品/サービスに関して顧客がSNS(ソーシャルネットワークゲーム)などに発信しているデータについては分析を開始している」(同)

 岸氏は、「社内データへの生成AIの適用は慎重になる必要があるが、例えば新しい医療保険のキャッチコピー作成などには社内情報は不要であり、商品の企画内容に基づいて生成AIを利用できる」と話す。具体的には、デジタルマーケティングやコンテンツマーケティング、協業先の選定、新しいビジネスモデルの開発などだ。さらには「生命保険に加入していない顧客を非保険サービスの顧客に転換するための戦略に関するアイデアが得られるなど、デジタル戦略を練る過程において、生成AIから多くの便益を得ている」(同)と明かす。

社員のビジネスマインドを養いリープフロッグを起こす

 さらに岸氏は生成AIについて、「業務での利用だけでなく、社員教育にも有効だ」と強調する。「新規事業において多くの社員は、どの顧客に、どのような商品を、どのように勧めれば購入してもらえるかを知らず、生成AIに入力すべき言葉を知らなければ、生成AIが出力した情報の意味も分からない。ビジネスマインドを養うための教育とトレーニングが重要になる」(同)からだ。

 社内人材の育成に生成AIを活用すれば、「新規業務におけるビジネス力を飛躍的に高められ、カエルの跳躍のように段階を飛び越える“リープフロッグ”が起こせる」と岸氏はみる。実際、岸氏の周辺では、「生成AIを使って、経験がない社員が短期間でニュースリリースを作成したり、専業主婦がデジタル領域に関する本を出版したりする事例が生まれている」(同)

 住友生命では今も、「どのようなデジタルによるビジネスモデルが日本の会社に適しているかを議論している」と岸氏は話す。「デジタル技術やビジネスモデルを理解・適用すれば、より効果的なビジネスモデルを作り出せる」(同)と考えているからだ。

 例えば、「デジタル商材の顧客価値向上メソッドについて、米Amazon.comなどの成功企業の取り組みを分析し、それを基に生成AIに具体的な戦略を尋ねれば、自社に有効なアイデアを得られる」(岸氏)という。岸氏は、「生成AIを研修に使い人材のアップデートを図ることが日本のためになる。技術の理解を深め適切に活用することが意味のある成果につながる」と力を込めた。