- Column
- 生成AIで高めるCX(顧客体験)
新規業務にこそ生成AIが有効、人材育成も利用しリープフロッグを起こせ
「DIGITAL X DAY 2023 Winter」より、住友生命保険の岸 和良 氏
住友生命保険は、DX(デジタルトランスフォーメーション)へ取り組む中で、県コウゾシン型保険「Vitality」といった新規事業の開発やDX人材の育成に力を入れている。生成AI(人工知能)技術の利用もその一環だ。同社のエグゼクティブ・フェロー/デジタル共創オフィサーでデジタル&データ本部 事務局長の岸 和良 氏が、「DIGITAL X DAY 2023 Winter 生成AIで高めるCX(顧客体験)」(主催:DIGITAL X、2023年12月15日)に登壇し、同社における生成AIの利用状況を説明するとともに、その真価は新規事業領域でこそ発揮できると訴えた。
「生成AI(人工知能)技術は既存事業の業務効率も高めるが、特に新規事業の創出や顧客価値の増大など新しい事業領域のほうが効果を発揮できる」――。住友生命保険のエグゼクティブ・フェロー/デジタル共創オフィサーであり、デジタル&データ本部 事務局長である岸 和良 氏は、こう語る(写真1)。
岸氏は現在、住友生命のデジタル戦略の策定と実行、そのためのDX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成を担っている。その延長線上で社外でも日本イノベーション融合学会/DX検定委員会が実施する「DXビジネス検定」の企画・問題作成や、ITコーディネータ協会の「DXマインドセット研修」を主催している。同研修は1000人以上が受講した。『DX人材の育て方』(翔泳社)や『実践リスキリング』(日経BP)といった著作もある。
これらの活動において岸氏は生成AIを利用している。そこでの立場には、(1)住友生命のデジタル共創オフィサー、(2)教育者、(3)連載・書籍の執筆者、(4)事業家、(5)農家の5つの役割があり、「それぞれの立場で『考える』『答え合わせをする』『聞く』『書く』『広める』という5つの用途で使っている」(岸氏)という。
5つの役割ごとの5つの使い方に対し岸氏は、「自身の文体など型が決まっている業務では、結果を一致させるまでにプロンプトの工夫・調整に時間がかかる。だが、新しい発想や、これまで書けなかった内容についての作業は上手い。他の仕事も同様に、既存業務の効率化よりも、新しい企画の立案など、未知の分野や新しい活動のほうが効果を得られる」と評価する(図1)。
正解のある既存業務への生成AI適用は開発に苦労も
住友生命としては生成AIを2023年10月から1万人が利用を始め、成果を上げている。例えば企画書の作成では、生成AIにより「以前は1カ月かかったものが1日で完了できるようになった」(岸氏)。企画書の早期作成といった活動を推進すれば、「日本の事業会社も再浮上できるのではないか」と岸氏は指摘する。
生成AIの適用範囲を岸氏は、「社内」と「社外」を縦軸に、「既存業務」と「新規業務」を横軸にした4象限で整理する(図2)。「多くの企業や団体は生成AIを社内の既存業務から利用し始めている。顧客への影響が少なく、社内で完結するためだ」(岸氏)。そこで結果が出れば、社外の既存業務に適用するケースが多い。
その背景には「新規業務はノウハウがないため難しく、既存業務への適用後に取り組むという一般的な考え方」(岸氏)がある。だが岸氏は、そうした状況に異を唱える。
「新規業務のアイデアは、会社としても私個人としても、なかなか思い浮かばない。それが生成AIに質問すれば、多くのアイデアを出してくれる。従来、社内に知識もノウハウもない事業を始める際は、コンサルティング会社や人的ネットワークを活用していた。それを生成AIに置き換えられれば、コスト削減と時間短縮につながる」
既存業務での生成AI活用は、既に存在する業務の効率化または機械化が主な目的になる。それだけに「正解がある既存業務の効率化ばかりに集中していると、期待する答えに到達するまでにプロンプトの開発などで苦労する。結果『生成AIは結局使えないじゃないか』という結論になってしまい、生成AIをうまく活用できない組織が増えている」と岸氏は分析する。
これに対し、新商品のシェア拡大や新チャネルの開拓、新規顧客の獲得など、新ビジネスに関連する活動は「既存のフレームワークがないため自由度が高く、新しいアイデアや手法を試しやすい。生成AIの活用により、収益を増やしビジネスの成長が期待できる」(岸氏)