- Column
- 生成AIで高めるCX(顧客体験)
求人情報のディップ、CX変革に向けた生成AI活用を8カ月で実現できた理由
「DIGITAL X DAY 2023 Winter」より、ディップ 執行役員の進藤 圭 氏
(2)業務・習慣を変える=成功体験を評価し日常化を図る
この段階での実践ポイントは大きく3つある。
ポイント1:成功体験を共有する
多くの従業員は「ChatGPTをうまく活用できても評価にはつながらないと考えている」と進藤氏は指摘する。そこで進藤氏は社員自身が評価されるようにした。例えば、AI系イベントに現場の社員を登壇させる、取材記事に登場させるなど、「外部からも評価されているという事例」(進藤氏)である。
進藤氏は「外部からの“黒船効果により、生成AIを活用し良い体験を作ったり時間を削減したりといった活動を社内で評価できる文化や社論を作っていきたい」と力を込める。
ポイント2:仕組みを作って成果を広げる
ここまでの取り組みで生まれた「『触ってみよう』という空気を萎ませないため」(進藤氏)である。ディップでは、ChatGPTへの指示文である「プロンプト」を自社業務に沿って作成し、それをデータベース化した。社員はデータベースにあるプロンプトをコピー&ペーストするだけでChatGPTを利用できる。
ポイント3:業務フローに組み込む
業務フローに組み込むのは、「業務削減効果の創出や可視化が難しくなる」(進藤氏)ためだ。そこで重要になるのが、「全員が利用できるツールに組み込むことだ」と進藤氏は指摘する。ディップでは3000人超の全従業員が使っている「Slack」を対象にした。
Slack上に「baby-dipperくん」と名付けたChatGPTを呼び出すためのボットを組み込み、日常的に利用できる用にした。その1つに「ロールプレイアシスタント」がある。年末年始に競合の採用状況などを把握する際に利用する。
これらの取り組みによりディップでは、導入から約3カ月で約9割の社員がChatGPTを使いながら業務を進めるようになった。
(3)顧客サービスを変える=変革はコア体験に絞る
会社と業務・習慣が変わって初めて、顧客サービスを変えられる。ここではCXの変え方が重要で、やはり3つのポイントがあるとする。
ポイント1:体験を絞る
「バリューチェーンの体験すべてを変えるのではなく、1カ所から始めることが重要だ」と進藤氏は話す。
ディップの場合、同社のサービス体験の中核は、「求職者に求人情報を見せることであり、クライアント(求人者)には広告を作り求人情報を伝えられるようにすること」(進藤氏)にある。そこでディップは、この2つに絞ってユーザー体験を変えることに取り組んだ。「豊富な情報量を求人情報に組み込み、それを読まれるようにすることが強み」(同)だからだ。
ポイント2:商品を改善する
ここまで来て初めてCX変革につながる商品を改善する。ただ、商品改善に伴い、現場は新しい仕組みを取り入れることになる。そこでは、「現場の作業がつらくならないようにすることが大切になる」と遠藤氏は指摘する。ディップでは、顧客体験と同時に従業員体験の向上にも取り組んでいる。
その一例が「原稿作成アシスタント」だ。クライアントの求人原稿を作るためのツールで、ChatGPTを使って、応募が増える条件や最適なキャッチコピーの示唆を得られるようにした。「原稿作成にかかる工数を削減しながら採用効果を高められる素晴らしいツールだ」と進藤氏は自画自賛する。同ツールSlack上で営業担当者らに提供している。
オフィスの生産効率でも世界最高の現場をAI/DXで作る
3段階3ステップの取り組みで、生成AIの全社導入に取り組んだディップ。「ここまでを8カ月で実現できたのは、できすぎた話だと思う」と進藤氏は振り返る。
そのうえで「生成AIを無理矢理使う必要はない。だが、生成AIが業務に浸透していくことも間違いがない」(進藤氏)とする。「トヨタ自動車が“カイゼン”により世界一の製造現場を作ったように、オフィスの生産効率でも世界最高の現場を作れるはずだ。そんな未来戦略を描くためにも、AI技術の活用やDXに取り組んでいただきたい」とエールを送る。