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WHEN:D2C事業の立ち上げから成長までにかかる期間をどう計画するか【第6回】

堀田 顕人(電通デジタル コマースマーケティング部門コマースデザイン部第1グループ)
2024年7月8日

前回は、D2C事業のための「5W3H」の中でD2C事業を通じ、どこの売り場で商品やサービスを提供するかの売り場づくりについて紹介しました。第6回は、D2C事業の立ち上げと成長には、どのぐらいの時間がかかり、その中でどう計画していくのがよいかの「WHEN」について解説します。

D2C(Direct to Consumer:消費者直接取引)事業を立ち上げても、成果(売り上げ、利益、各種KPI:重要業績評価指標の達成)が、すぐには出ないことがあります。少なくても単年で黒字化するためには2〜3年はかかるといわれています。その要因としては主に、ブランド構築、顧客からの信頼関係の確立、データ収集・解析、組織づくりの、それぞれにかかる時間が挙げられます。

まずはブランドの構築や認知向上から

 D2C事業においては、ブランドを構築し認知度を高めることは非常に重要です。ですが、その過程には時間がかかる要因がいくつかあります。新興ブランドやスタートアップ企業だけではなく、大手企業が手掛ける新規事業だとしても、先行している既存ブランドと比較して知名度や信頼度が低いという課題は共通です。

 新しいブランドに対して顧客からの信頼を得るまでにも時間がかかります。広告やプロモーション活動を通じてブランドのパーパスやミッション、ビジョン、商品の特徴を伝えることで徐々に顧客の認知度を高め、そこからさらに後述するような信頼を築いていく必要があります。

 そこでは競合他社との差別化や独自性を示すことも重要です。顧客にとって魅力的なメリットや付加価値を提供し、他社との差別化を図ることで、ブランドの魅力を高められます。しかし、この差別化や独自性を確立するにも時間がかかります。市場や顧客のニーズを理解し、適切な商品やサービスを提供するためには時間が必要です。

 このように、D2C事業におけるブランド構築や認知度向上には時間と労力がかかります。ですがブランドを育てることで、長期的な成功を収めることにつながります。

リピートやロイヤル化には顧客満足度の向上が不可欠

 顧客の信頼を獲得しリピートやロイヤル化を促進するためには、継続的な顧客エンゲージメントや顧客満足度の向上が不可欠です。顧客がブランドや商品/サービスに満足しているかを確認し、積極的に顧客からのフィードバックの声を収集することが重要です。彼らの声に耳を傾け、改善点や要望に応えることで顧客満足度を高められます。

 定期的に新着情報や優先・先行情報など会員限定情報をメルマガやSNS(ソーシャルメディアサービス)を活用して提供したり、限定商品を既存顧客から先行して展開したりすることで、顧客への付加価値の提供によるリピート購入を促進できます。さらに、購買履歴や行動データを分析し、顧客個別に適したマーケティング施策を展開すれば、ニーズに応じたサービスを提供できるようになります。

 ただし、こうしたリピート購入やブランドのロイヤル化を進めるには、顧客との継続的な関係構築が欠かせないだけに、ここにも十分な時間をかける必要があります。

顧客を理解するためのデータ収集・分析が必要に

 上述した顧客のロイヤル化を実現するためなど、データの収集や分析が必要になります。顧客の行動データや購買履歴、ソーシャルメディア上の反応など、さまざまな情報を収集・分析することで、顧客の行動パターンや嗜好が理解でき、効果的なマーケティング施策を展開できるからです。

 しかし、これにも十分な時間とリソースが必要になります。そもそも、データを収集・分析するためには、データを蓄積するための適切なシステムやツールの導入や、顧客の行動や購買履歴を導き出せるだけの一定量以上のデータの蓄積、データの整理・加工作業、分析に基づく洞察や施策の策定などに取り組まねばなりません。

 そのうえでマーケティング戦略の最適化を図るには、仮設立案からの実験やテストを通じた効果の評価、それに基づく改善サイクルを回す必要があります。新しい広告キャンペーンやプロモーション施策を展開し、その結果を分析して効果を評価し、必要に応じて改善します。加えて継続的な試行錯誤も必要です。

継続的な成長にはインフラ・組織づくりが必要に

 上述したような取り組みを経て、D2C事業が成長し、需要や売り上げが増加していく過程では、組織やインフラの拡大・スケーリングが必要になります。新たな市場に進出したり、新商品や新サービスを展開したりする際には、人員の増加や必要な役割の人員配置・採用など、適切な体制づくりが不可欠です。ここでも時間を要するため、成長までには数年の期間がかかるわけです。

 D2C事業の立ち上げや成長は一朝一夕にはいきません。しかし、時間と労力を掛け、顧客ニーズを正確に把握し、効果的なマーケティング施策を展開できれば、ブランドの成長や顧客との信頼関係の構築につながります。さらに、データ収集・分析やインフラ・組織づくりに取り組むことで、事業が大きく成長する可能性は高まるでしょう。

 次回は、5W3Hのうちの「HOW MUCH」、すなわちD2C事業を推進するうえでの数値・データ管理について説明します。

堀田 顕人(ほった・あきと)

電通デジタル コマースマーケティング部門コマースデザイン部第1グループ。マーケティングやコミュニケーション領域を対象にしたプロジェクトマネジメント専門会社で不動産やスポーツマーケティングなど幅広い業界の大規模プロジェクトを経験。雑貨・文具プロダクトの事業会社ではブランドマネジメントから広報やEC運営、SNSなど集客からCRMまでのコミュニケーション全般における戦略立案・施策実施業務に従事。現在はD2C事業の立ち上げ・事業計画策定からサイト構築、グロース支援などを幅広く担当している。