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データ活用のためのサイクルを確立する【第1回】

佐藤 恵一(日立製作所 公共システム事業部 パブリックセーフティ推進本部)
2024年2月15日

データ活用のためのサイクルを確立する

 このようにデータ活用においては、(1)収集、(2)蓄積、(3)活用からなるサイクルを確立する必要があるのです(図2)。

図2:データ活用に必要な(1)収集、(2)蓄積、(3)活用のサイクル

サイクル1:収集

 ICTの高度化が進み社会インフラとして定着したことや、スマートフォンやIoT(モノのインターネット)デバイスなどの普及などにより、多くの情報がデジタル化され収集できるようになりました。近年のIoT向けセンサー/デバイスは、「その存在をいかに意識させずに情報を収集できるか」に焦点が当てられているからです。

 例えば、その代表例がウェアラブルデバイスです。スマートウォッチは、腕に着けるだけでバイタルデータが収集できる簡便さから、多くの人が利用するようになりました。防犯カメラのイメージセンサーや、スマートスピーカーに搭載されたマイクも、その存在を特に意識することなく情報を収集できます。

サイクル2:蓄積

 記憶装置の容量が飛躍的に増大し、クラウド化が進んだことで、データを蓄積するための環境が整ってきました。ですが、データの蓄積では、情報セキュリティの確保が重要な課題になります。

 例えば、企業が保有する産業データであれば、競争力の源泉として保護する必要があります。パーソナルデータであれば、個人の権利や利益を守らなければなりません。これらを守るための安全管理措置が情報セキュリティ対策です。

 つまり、「適切な人が、正確な情報に、必要に応じアクセスできるようにする」のが情報セキュリティ対策です。そのための技術は急速に進歩しており、最近はE2EE(End to End Encryption)や秘密計算などが注目されています。

サイクル3:活用

 AI技術などを活用したビッグデータ分析が普及しています。直近では「ChatGPT」といった生成系AIが大きな話題になっており、テレビや雑誌、インターネットで目にする機会も増えました。しかし今のところ“万能なAI”は存在しません。それぞれに得意・不得意があることを理解する必要があります。使い方を間違うと、誤った情報が生成されたり、著作権や個人情報、プライバシーなど他者の権利を侵害したりするリスクがあります。

 技術の進歩と並行して、法制面の整備なども進んでいます。ですが、プライバシー保護などの倫理面や経済合理性のハードルもあり「まだまだこれから」といった状況です。今後のさらなる法令やガイドラインの整備が待たれます。

経済合理性を考慮しなければ継続性を得られない

 データの収集、蓄積、活用には、それぞれ強い相関性があります。例えば、ビッグデータの1つであるオープンデータを活用する際、データの量が十分であったとしても、質が不足していては用途が限られてしまいます。その場合は、不足するデータを改めて収集しなければなりません。

 蓄積された産業データやパーソナルデータを活用する場合、量や質のバランスが取れていたとしても、十分なセキュリティ対策が講じられないと、情報漏洩のリスクを恐れデータ活用を躊躇(ちゅうちょ)してしまうでしょう。

 加えてデータ活用では、経済合理性を考慮する必要もあります。データを収集・蓄積・活用するためにはコストがかかるだけに、そのコストに見合った成果を生み出せるかどうかは、データ活用の取り組みを継続するうえで重要なポイントです。データの価値を最大化し、コストを上回る利益の創出とエコシステムの構築ができなければ、継続したデータ活用の取り組みは困難になります。

 このようにデータ活用のサイクルを確立するまでには、「このデータは使えるだろうか」「データを安全に管理するためにはどうすればいいか」「法律やガイドラインをどうやって遵守するか」「ビジネスとしてどう成立させるか」など、いくつもの関門が待ち構えています。次回からは、それぞれの関門について説明していきます。

佐藤 恵一(さとう・けいいち)

日立製作所 公共システム事業部 パブリックセーフティ推進本部 パブリックセーフティ第二部 主任技師 2000年日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社入社。2009年大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了.同年に秘匿情報管理サービス「匿名バンク」を事業化。産業・金融・公共・ヘルスケア分野に高セキュアなクラウドサービスを展開。2015年日立製作所へ転属。現在は「匿名バンク」事業推進を主として、公的機関や民間企業向けのITコンサルティング業務などにも従事。情報処理安全確保支援士。一般社団法人遺伝情報取扱協会理事。博士(工学)。