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  • DXの核をなすデータの価値を最大限に引き出す

データ活用のためのサイクルを確立する【第1回】

佐藤 恵一(日立製作所 公共システム事業部 パブリックセーフティ推進本部)
2024年2月15日

デジタルトランスフォーメーション(DX)の中核に位置するのはデータです。データを最大限活用することで、従来の“経験と勘”だけに頼らない新たなビジネスや社会サービスの創造を目指します。しかし、データを活用するためには多くの関門が待ち構えているのも事実です。今回は、データ活用のために必要な“サイクル”について説明します。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)は、デジタル技術を活用することで新たな事業や社会サービスを生み出すための取り組みです。SDGs(継続可能な開発目標)や地球温暖化対策への対応が企業経営においても重要な課題になっている今、各社の新規事業は私たちの社会との関係が、これまで以上に強まっていると言えるでしょう。

 DXへの取り組みにおいて、活動の中核をなすのがデータ活用です。データ活用によって我々は、どのような社会を作れるのでしょうか。例えば「現在の身体検査の結果に基づき将来のリスクを予測し早期に手を打てる“生涯健康な社会”」や「何も言わなくても自分好みのサービスが受けられ“質の高い生活が送れる社会”」「最適な制御や生産により資源を有効に活用できる“無駄のない社会”」などなど、その夢は無限に広がります。

データにはモノのデータとヒトのデータがある

 こうした社会の実現に必要なデータは大きく、(1)モノのデータ(非パーソナルデータ)と(2)ヒトのデータ(パーソナルデータ)に分けられます(図1)。

図1:社会の実現に必要なデータには(1)モノのデータ(非パーソナルデータ)と(2)ヒトのデータ(パーソナルデータ)がある

(1)モノのデータ :代表例としては、センサーデータが挙げられます。センサーには、さまざまな種類があります。物理量や化学量を計測するセンサーや、画像を取り扱うイメージセンサー、音を取り扱うマイクなどです。
(2)ヒトのデータ :個人に紐づいているデータです。モノのデータがヒトに結び付いている場合も同様です。パーソナルなデータを取り扱う場合は、個人情報に関連する法令やガイドラインを遵守した特段の配慮が必要になります。

 モノのデータとヒトのデータとは別に、データ活用のキーワードとして「ビッグデータ」という言葉を聞いたことがあると思います。ビッグデータについて『平成29年版情報通信白書』(総務省)は、(1)オープンデータ、(2)産業データ、(3)パーソナルデータに大別しています。

(1)オープンデータ :官民データ活用推進基本法に基づき、政府や地方公共団体などの公共機関が保有するデータをオープン化したもの
(2)産業データ :主に企業が生成・保有するデータ。ノウハウをデジタル化したデータや、生産現場や建築物に設置されたIoT機器から収集されたデータなどが該当します
(3)パーソナルデータ :個人に関する幅広いデータ。氏名や住所といった個人情報はもちろんのこと、商品の購買履歴、インターネットの閲覧情報、GPS(全地球測位システム)などの位置情報や移動履歴、健康管理情報などが該当します

 データ活用とは、これらのデータを収集し、記憶装置に蓄積し、蓄積されたデータをAI(人工知能)技術などで分析・解析することです。例えば、サブスクリプション(購読)型の音楽コンテンツサービスであれば、そのデータ活用のおおまかな流れは、こうです。

演奏している音をマイクによりデータ化して収集し、音楽データとしてクラウドデータセンターに蓄積し、音楽の特徴などをAI技術などを用いて分析・解析し、その結果を基に視聴者の気持ちや場の雰囲気に合わせた音楽を抽出・提案し、再生する

 このとき、視聴者の好みの情報が個人に紐づいて管理されていれば、パーソナルデータとしての取り扱いがなされているはずです。