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  • 富士フイルム流・ブロックチェーン技術を用いた情報基盤「DTPF」の作り方

情報基盤「DTPF」を活用したサプライチェーン改革の実際【第3回】

野村 崇、福原 雄一、高橋 正道、根本 啓一(富士フイルム)
2024年6月10日

 調達業務におけるコミュニケーションルートは従来、メールや電話など複数存在し、“バケツリレー方式”での情報伝達も多かった。そのため「言った」「言わない」の確認だけでも労力を要した。それをチャットに一本化したことでコミュニケーションに起因する業務ロスが大幅に軽減できた(図4)。

図4:SRMの導入前後による調達業務のプロセスの変化

 SRMの稼働により、「どの部品を、いつ、どれだけ必要か」という情報と、それに対するサプライヤーからの「必要量の部品を、いつ納品できるか」という情報をリアルタイムに共有できる環境が整ったと自負している。

対象範囲を段階的に拡大しスムーズな運用を実現

 SRMの開発・導入も、DTPF同様、スモールスタートを基本に、対象になる自社工場やサプライヤー、部品品目などを順次拡大している。

 最初にPoC(概念検証)を2022年1月に開始した。当社の1工場と、サプライヤーの1社8品目を対象にした。2022年度下期からは試験運用を始め、海外を含め、当社の全6工場、サプライヤー8社に拡大。対象部品も、メカ・電子・レンズ系の主要ジャンルを網羅する4300品目に広げた。2023年7月に本格運用に移行し、2024年5月時点では、160社超のサプライヤーが参加し、部品品目数は2万点を超えている。

 開発の過程では、事業主体のイメージングソリューション事業部と、富士フイルムオプティクスなど生産調達機能を担う各社、SRMの開発実務を担うイメージング・インフォマティクスラボの関係者がチームとして取り組んだ。「サプライヤーも含めて、実際の運用者となる現場の意見を踏まえずして真に有用な情報基盤は実現できない。DXを通じて、自社・サプライヤーの双方が持続的に発展できるエコシステムを実現したい」という思いに基づくものだ。

 チームは、海外を含めた自社工場の調達部門やサプライヤーの拠点を訪れ、SRMに対する要望をヒアリングし、仕様のブラッシュアップを進めた。エンドユーザーの使いやすさに直結する画面デザインなどのユーザーインタフェースについては、当社デザイン部門の知見を投入した。

 イメージングソリューション事業部とイメージング・インフォマティクスラボでは、SRMの導入背景や、当社とサプライヤー双方にとってのメリット、SRMの機能などを紹介する動画資料を3カ国語で用意するといった取り組みにも注力している。説明者の知識量に左右されることなく、サプライヤー各社に対し、分かりやすく、かつ過不足なくSRMの内容を伝えるためである。

 これらの施策もありSRMに対しては総じて高い評価が寄せられている。例えば、当社工場の調達部門は「サプライヤーとの納期調整に必要な情報が全てSRMに集約されているため、作業効率が大幅に上がった」と評価。サプライヤーからは「富士フイルムの生産計画がリアルタイムに把握でき、いつまでに部品を供給すれば良いのかが一目で分かるようになった。自社の生産計画を立案する上でも役立っている」といった声をいただいている。

情報の「見える化」を生かし一層の業務進化を目指す

 本格運用開始から約1年が経過したSRMは、デジタルカメラ部品の主要サプライヤーとの情報基盤として安定運用されている。イメージングソリューション事業部は今後、SRMによる部品調達の「見える化」効果を生かし、さらなる業務進化を目指している。具体的には、確度が高まった納期回答情報を基に、部品発注1回当たりの数量をより絞り込み、部品在庫量の一層の適正化を図ることを視野に入れる。

 調達業務は、デジタルカメラに限らず、当グループのあらゆる製品のサプライチェーンに不可欠だ。イメージング・インフォマティクスラボでは、半導体材料やディスプレイ材料などの生産に必要な化成品原料の調達を対象に、SRMと同様の考え方を取り入れたサプライヤーとの情報基盤の検証作業を進めている。

 次回は、ヘルスケア領域におけるDTPFの活用例について説明する。

野村 崇(のむら・たかし:上左)

富士フイルム イメージングソリューション事業部 プロフェッショナルイメージンググループ SCMチーム長。2002年東京大学 経済学部卒業、富士フイルム入社。2018年より現職。

福原 雄一(ふくはら・ゆういち:上右)

富士フイルムオプティクス 調達本部。1997年慶應義塾大学 経済学部卒業、富士フイルム入社。2021年より富士フイルムオプティクスに出向。

高橋 正道(たかはし・まさみち:下左)

富士フイルム ICT戦略部 イメージング・インフォマティクスラボ統括マネージャー。1999年慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科修了、富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)入社。2005~2007年MIT Sloan School of Management, Center for Collective Intelligence訪問研究員。2022年富士フイルムに移籍し、ブロックチェーン技術の応用研究に従事。

根本 啓一(ねもと・けいいち:下右)

富士フイルム ICT戦略部 イメージング・インフォマティクスラボ。2003年慶應義塾大学大学院 理工学研究科修了、富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)入社。2009年~2011年MIT Sloan School of Management, Center for Collective Intelligence訪問研究員。2022年富士フイルムに移籍し、ブロックチェーン技術の応用研究に従事。博士(工学)。