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  • 富士フイルム流・ブロックチェーン技術を用いた情報基盤「DTPF」の作り方

富士フイルムが開発・運用する情報基盤「DTPF」のこれから【第5回】

杉本 征剛、鍋田 敏之、高橋 正道、大石 豊(富士フイルムグループ)
2024年8月13日

これまで、富士フイルムグループがDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の中で開発・利用を進める、ブロックチェーン技術を使った情報基盤「DTPF(デジタルトラストプラットフォーム)」について、実例を交えながら説明してきた。今回はDTPFのこれからについて、機能や利用像を挙げながら説明する。

 富士フイルムグループが開発・運用するブロックチェーン技術を用いた情報基盤「DTPF」は既に、さまざまな事業に適用され始めている。開発主体である富士フイルム イメージング・インフォマティクスラボは、DTPFの開発・運用のレベルアップに向け、2026年度以降までを視野に入れた技術ロードマップを策定している(図1)。

図1:情報基盤「DTPF」の技術ロードマップ

 技術ロードマップは次の4段階からなっている。

第1段階 :デジタル空間上で情報をやり取りする“ヒト”の認証を確立。デジタルカメラのサプライチェーン改革における当社と部品サプライヤー間の情報連携などに活用している(第3回参照)。

第2段階 :ウェアラブルデバイスや医療機器といった“モノ”から収集するユーザーの行動履歴データなどを安心・安全に共有できる環境の整備で、現在進行中である。富士フイルムが新興国で提供する健診サービスを起点とした新たなヘルスケアビジネスの構想に結び付きつつある(第4回参照)。

第3段階 :契約や決済など“カネ”と密接なつながりがある情報の管理。ブロックチェーン技術に基づく金銭情報の扱いは今後、各国で法制度の整備が進むと予想される。その動きとも歩調を合わせながらユースケースの具体化を進めていく。

第4段階 :当社とパートナー企業がDTPF上で“ヒト・モノ・カネ”に関するあらゆる情報を統合・連携させ、自律的かつ持続的にビジネスを展開できる経済的な“エコシステム”の形成。ブロックチェーン技術を活用し、特定の管理者が介在しなくても組織運営やビジネスの推進を可能にする組織形態「DAO (Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)」を形成する動きだとも言える。

DXロードマップの実現に向け必要な機能を実装

 技術ロードマップの4段階は、2030年度までを対象とした富士フイルムグループの「DXロードマップ」(第1回参照)とも密接なつながりがある(図2)。

図2:DTPFの技術ロードマップと関係性が強いDXロードマップ

 特に、DXロードマップの最終段階であるステージⅢでは、パートナー企業との共創に基づいて持続可能な社会の実現に寄与する製品・サービスを提供し続けることが目標だ。その過程では、社外との機密性の高い情報のやり取りが発生するだけに、デジタル情報を介した取引の“トラスト(信頼性)”を担保できるDTPFの重要性は極めて高いと考えている。

 技術ロードマップのそれぞれの段階で想定する機能は、いずれもDXロードマップが定める姿の実現に必要不可欠な要素である。

 例えば、新興国で展開する健診サービス事業では、受診者の健診データと、受診者が身に付けるウェアラブルデバイスで収集した心拍数や血圧、睡眠、酸素レベルなどのヘルスケアデータを連携させることで、一層有用な診断情報や新サービスの提供を視野に入れている。

 その前提となるDTPFでは、多種多様なウェアラブルデバイスのデータを確実に記録するだけでなく、サービスの根拠となる収集データの信頼性そのものを担保できる仕組みを備える必要がある。

 決済などの金銭情報を扱うためには、利用者一人ひとりが金銭やポイント(トークン)を管理できるウォレット(財布)機能がDTPFに求められる。利用者数が爆発的に増えてもウォレットの使い勝手や運用コストを適正にする方法を見いだすことが、ビジネスの持続性を高めることにつながる。

 技術ロードマップの第4段階で想定する“ヒト・モノ・カネ”の情報統合・連携に基づくパートナー企業とのビジネス展開では、当社に代わり、パートナー企業や利用者自身が主体になり自律的にDTPFを運用するケースも想定される。技術の進歩に合わせてDTPFの構成要素を柔軟に組み替えながら、パートナー企業や利用者に永続的なトラスト基盤を提供し続けることは当社の責務だと考える。