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  • 富士フイルム流・ブロックチェーン技術を用いた情報基盤「DTPF」の作り方

情報基盤「DTPF」を活用したサプライチェーン改革の実際【第3回】

野村 崇、福原 雄一、高橋 正道、根本 啓一(富士フイルム)
2024年6月10日

前回までに富士フイルムグループが取り組むDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の概要や、ブロックチェーン技術を使った「DTPF(デジタルトラストプラットフォーム)」位置付けや開発・運用体制などについて説明した。今回は、DTPFの実際の適用例として、グローバル事業であるデジタルカメラのサプライチェーンの改革について解説する。

 「DTPF(デジタルトラストプラットフォーム)」は、富士フイルムグループがブロックチェーン技術を使って自ら開発・運用する情報基盤である。その適用領域の1つに、当社イメージングソリューション事業の主力製品であるデジタルカメラ「Xシリーズ」のサプライチェーンがある。

 Xシリーズは世界各地に供給しており、その部品の多くは国内外の数百社ある部品サプライヤーから調達している(図1)。1台当たりの部品数は、機種により差異はあるが、メカ・電子・レンズ系を中心に数百点以上に上る。

図1:イメージングソリューション事業の主力製品であるデジタルカメラ「Xシリーズ」の例

 従来の部品調達は、デジタルカメラの生産計画に基づき、調達部門とサプライヤーの担当者がメールや電話などで都度やり取りし納期を調整していた。製品需要の変動などに伴い生産計画に変更が生じた際も、両者間の調整により、著しい部品の過不足は回避できてきた。

 しかし2020年に始まったコロナ禍では一時期、ロックダウンなどの影響でサプライヤーの生産量が大幅に低下した一方で、デジタルカメラの需要が急拡大したことから、部品の需給バランスが著しく悪化。生産計画に対して、思うように部品の納期回答を得られないケースが多発した。

 たとえ一点でも部品が欠ければデジタルカメラの生産は成り立たない。調達部門はサプライヤーとの納期調整に奔走したが、需給バランスは刻々と変化するだけに、その調整は困難だった。部品によっては、翌週からの生産量に対し、社内に部品のストックが全くないといった綱渡りの状況すら続いた。

DTPFをベースにサプライヤーとの連携を強化する業務アプリを開発

 こうした状況の解決策として開発・導入したのが、DTPF上で動作する業務アプリケーション「SRM(サプライヤーリレーションシップマネジメントシステム)」である。サプライヤーとの情報共有を、より効率的かつ安全にし、デジタルカメラの生産計画の成否を左右する部品納期の回答を、スムーズに得られるようにするのが目的だ。

 ブロックチェーン技術を使ったDTPFが基盤であるため、情報の漏えいや改ざんなどのリスクを払拭し、トラストを担保できる。“トラストファースト”へのこだわりが、当社と多数のサプライヤーのコミュニケーションにおける安心・安全に直結している。

 SRMは、(1)ダッシュボード、(2)手配状況表、(3)チャットの3つの機能を持つ。まずダッシュボートは、国内外にある当社のデジタルカメラ工場が調達を予定する部品の品目数や納期回答の取得数などの全体像を数字と円グラフで可視化し、状況把握を容易にする(図2)。

図2:DTPF上で動作する業務アプリケーション「SRM」のダッシュボードの例

 手配状況表は、希望する部品の納期や数量と、それに対するサプライヤーの納期回答の現状や見通しを共有するための一覧である(図3)。従来は、これらの情報を完全に把握するためには、関係各所からExcelファイルなどで管理しているデータを収集し、手作業で照らし合わせなければならなかった。

図3:手配状況表の画面例(左)と同画面内に表示されるチャットの例

 チャットは、手配状況表と同じ画面内に表示される。調達部門とサプライヤーの担当者が手配表を見ながらコミュニケーションができ、その履歴も記録する。