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- 富士フイルム流・ブロックチェーン技術を用いた情報基盤「DTPF」の作り方
富士フイルムが情報基盤「DTPF」を使って海外展開するヘルスケアビジネスの可能性【第4回】
前回は、富士フイルムグループがブロックチェーン技術を使って開発・運用する「DTPF(デジタルトラストプラットフォーム)」の適用例として、デジタルカメラのサプライチェーン改革について解説した。今回は、もう1つの適用例である健診サービスを挙げ、その現状や将来展望について解説する。
富士フイルムグループがブロックチェーン技術を使って開発・運用する情報基盤「DTPF(デジタルトラストプラットフォーム)」の適用先に、ヘルスケアビジネスの一環として新興国で2021年に開始した健康診断(健診)サービスがある。2024年7月時点で、インド、モンゴル国、ベトナムの計6カ所に健診センター「NURA(ニューラ)」を設け、がん検診をはじめとした生活習慣病の検査サービスを提供している(図1)。
新興国では「健診を受ける」という文化が定着していない。そのために、日本などに比べ、がんの早期発見率などが総じて低く、健康リスクが相対的に高いと言える。NURAでの健診サービスは、そうした新興国の人々に健診機会を増やすことを目指している。
健診サービスでは、約120分で全ての検査を完了し、かつ、その場で診断画像を見ながら、医師が健診結果を説明する。そのために、医師の診断を支援するAI(人工知能)技術も活用している。
こうした利便性が現地では高く評価されている。日本流の“おもてなし”を反映した接遇や空間デザインなども好意的に受け止められている。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上で現地インフルエンサーと連携したデジタルマーケティング施策などの効果もあり、受診数は2024年6月時点で延べ4万5000人を超えた。
健診ビッグデータを使った新ビジネスを共創で創出
NURAでは、当社のCT(Computed Tomography:コンピュータ断層診断装置)やマンモグラフィなどの医療機器を使った検査結果が日々、ビッグデータとして蓄積されている。ヘルスケアの事業領域では、このビッグデータを有効に活用し、社内外と連携することで、世界中の人々の健康増進に寄与できる価値を共創し、新たなビジネスにつなげることを志向する。
もっとも、受診者一人ひとりの健診データは個人情報であり、厳格な情報管理が求められる。従って、健診データに基づくビジネス創出に向けては、世界中に広がる社内外のステークホルダーが、安心・安全にデータを扱える環境を整えなければならない。
具体的には、健診データの利用における受診者本人の同意情報を厳格に記録・管理する必要がある。加えて、健診データが各国の法令やセキュリティ要件を順守し正しく利用されていることを、受診者やデータ利用者、監督機関などに対して証明する必要もある。これらデータ利用における“トラスト”を担保するのが、情報の改ざんリスクが極めて低いブロックチェーン技術を活用したDTPFになる(図2)。
そこに向けたDTPFの活用実証を、健診サービスを手掛けるメディカルシステム事業部と、DTPFの開発主体であるイメージング・インフォマティクスラボが連携し、複数の方向性で始めている。
第1は学術分野との情報連携だ。複数国に展開するNURAには、診断画像を中心に、さまざまな属性の健診データが大量に集積されている。これらのデータを学術機関において横並びで比較し、さまざまな観点から精査することで、疾患のメカニズムや予防・治療方法などの研究を大きく進展させられる可能性がある。
第2は、受診者個人が健診データを“個人資産”として二次利用可能にすることだ。例えば、希少疾患など十分なデータが集まりにくい分野において、受診者個人が健診データを学術機関や製薬会社などに開示し、新たな医療技術や医薬品の開発に役立てるといった展開が考えられる。
第3は、他社との連携によるヘルスケアビジネスの加速だ。例えば高血圧症を抱える受診者に対し、家庭内でも手軽に血圧を測定できる機器を紹介する、保険会社と連携し受診者それぞれの健康状態や疾病リスクの予想に基づいた“個人特化型”の保険商品を提示するといった方向性である。
社外との連携に加えて、富士フイルムグループ内の研究開発部門とも健診データを共有し、自社の製品や健診サービスの進化につなげることも見込んでいる。AI技術を活用した新たな画像診断装置の開発に役立てたり、健診データを日本側でより詳細に分析して受診者の中長期の健康リスクを提示したりである。