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- データ駆動型経営が求める商品マスターの作り方
なぜ今、商品マスターが注目されるのか?【第1回】
リアル店舗では商品自体にさまざまな情報が記載されている
データの生成・加工プロセスにおいて、必要な商品情報の項目数、つまりカラム(列)が増えるのかを、コロナ禍に急激に進展したEC(電子商取引)を例に見てみましょう。
リアル店舗で商品を売る場合、棚に商品を載せ値札を貼れば、消費者は、その商品を買うかどうかの意思決定ができます。売り場はカテゴリーで分けられており、商品を見たり触れたりすれば、その大きさや重さ、感触や匂いなどが分かります。商品の包装などにも、さまざまな情報が書かれています。売り手にすれば、消費者向けの商品情報を自らが十分に持たなくても良かったわけです。
これに対しECというデジタルの世界では、商品の写真と価格だけが表示されていても、消費者は購入にまで至るのは、なかなか難しいのではないでしょうか。
そもそも「食品」や「日用品」など商品が属するカテゴリー情報がないと探しづらいですし、どれくらいの大きさなのか、どれだけの重さがあるのか、どんな香りなのかなど、商品のスペックや、その特徴などを説明する必要があります。
しかも、オンラインでは、それらテキスト、あるいは最近増えている動画で説明しなければなりません。ECサイトやフリマサイトで商品の詳細ページを見れば、実に多くの情報がテキストで掲載されています。
それだけ多くの商品情報が掲載されているECサイトの裏側では、その商品を販売している企業や個人が、それら項目をテキストとして入力しているということです。同じ商品でも、複数サイトで販売するためには、サイトのそれぞれに人が商品情報を入力しているわけです。
商品情報の代表的な項目をざっくりと挙げれば、カテゴリー(例:日用品 > スキンケア用品 > マスクタイプ)、製品サイズ、容量、メーカー、商品型番、価格、特徴などがあります。
これらの他に、商品の検索性を高めたり、検索エンジン対策として商品に多くの「タグ」を用意したりしているECサイトも多くあります。「こってり」「和風」「DIY」「健康」などです。これらのタグは付けようと思えばいくらでもつけられるだけに、それだけ手入力するテキストが増えることにもなります。
要因3:配信=スプレッドシートのファイル自体が増える
生成・加工したデータの配信先が増えると、データの配信と同期にも手間がかかります。分析ツールやAIモデル、ECの各種プラットフォーム、取引先のシステムなど、データの配信先が要求するデータ形式は、それぞれ異なります。それら形式に合うようデータを生成・加工したうえで、商品情報を配信する必要があります。ですが、社内システムの数は増える一方ですし、社外にデータをまとめたスプレッドシートをメールに添付して送ることは、送り手と受け手の双方に手間がかかってしまいます。
カバーすべき商品情報の「面積 = 商品数 ×項目数」は飛躍的に増加
このように、(1)年々増加するデータ、(2)オンラインビジネスの加速度的な浸透、(3)さらなるデータ活用によって、企業がカバーすべき商品情報の「面積」、すなわち「商品数 ×項目数」は飛躍的に増え続けます。しかも、その情報は、他のシステムなどに連携しつつ、維持・更新することが求められています。
商品情報の扱いは、上述したように、これまで労働集約的な形、すなわち“気合と根性”で解決するか諦めるかのどちらかでした。外資系の大手戦略コンサルティングファームであっても、メーカーのコンサルティング案件を進める際には、管理が不十分な商品マスターをコンサルタントが“気合と根性”で整備し直すことはよくあると聞きます。
しかし、そのためには大規模な予算が必要であり、かつ一時的に整備しても商品情報を維持・更新し続けなければなりません。労働人口が年々減少している日本で、これからも増大し続ける商品情報に関する課題を“気合と根性”だけで乗り切るのは難しいのが実状です。
そうした課題を解決するために、AIと高度なデータを取り扱う技術の利用が始まっています。筆者が所属するLazuliも、商品情報に関するこの根本的・根源的な課題を解決するためのSaaS(Software as a Service)である「Lazuli PDP((Product Data Platform))を開発しています。
次回からは、Lazuli PDPの開発や顧客企業への導入における、さまざまな経験や知見を元に、商品情報に関する課題を整理しながら、それぞれが、どのように解決できるのか、解決できれば何が可能になるのかについて解説していきます。
池内 優嗣(いけうち・ゆうじ)
Lazuli COO(Chief Operation Officer:最高執行責任者)。2003年リクルート入社。営業、マーケティングを経験の後、デジタルマーケティングを全社横断で統括する組織にて各事業のグロースを支える。2013年より三井物産ヘルスケア事業本部で事業開発、M&Aに従事。FRONTEO 社長室勤務を経て、2020年にLazuliを萩原静厳と共同創業。2003年東京大学文学部歴史文化学科美術史学専修課程 修了、2013年MBA(Trinity College Dublin)取得。