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データの生成・加工における「1:N」問題とAI技術の解決力【第4回】

池内 優嗣(Lazuli COO)
2025年10月6日

前回まで、商品データの活用においては「収集・統合」段階から大きな壁があることをお伝えしてきました。社内外に散在するデータを集め、使える形に整えるだけでも一苦労です。しかし、データ活用の難しさは、それだけではありません。今回は、収集したデータを実際に使える形にする「生成・加工」プロセスにおける課題と、その解決策としてのAI(人工知能)技術の可能性について解説します。

 第3回で触れたEC(電子商取引)サイトの例でお話ししたように、収集・統合した商品データはそのままの形で、あらゆる場面で使えるわけではありません。むしろ、ここからが本番と言っても過言ではないでしょう。

商品データの「生成・加工」プロセスにも大きな壁がある

 生成・加工のプロセスは、データの収集・統合と同様、あるいは、それ以上に人的リソースと時間を要する非常に課題の大きいプロセスです。たとえ元になる商品データが1つであっても、それをデータ分析やAI(人工知能)活用、マーケティング施策などに利用するためには、そのために利用するシステムやツールが要求するデータ形式や項目に合わせた生成や加工が必要不可欠だからです。

 例えば、基幹システムあるいは部署が管理するExcelファイルに商品データが登録されているとします。1つの商品データに対して、その利用シーン、すなわち利用するシステムやツールに合わせて、その数だけ異なる形式の商品データを用意しなければなりません。そこでは以下のような要望が出てきます。

●ECサイトAに掲載するためには、特定の文字数制限に合わせた商品説明文と、独自のカテゴリー分類、販売促進用のキーワードタグが必要
●ECサイトBに掲載するためには、ECサイトAとは異なる文字数、異なるカテゴリー体系、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)連携用の短縮商品名が必要
●分析ツールで利用するためには、特定の商品特徴を示すフラグ立て、競合比較用の統一されたスペック情報が必要
●広告配信プラットフォームで利用するためには、ターゲット層に響くキャッチコピー、特定のキャンペーンに紐づく情報が必要
●CRM(顧客情報管理)システムで利用するためには、顧客セグメントに合わせた推奨理由テキストが必要

 複数のシステム/用途に合わせた加工が必要なことを「1:N問題」と呼びます。1:Nの変換作業は多くの場合、担当者が手作業で実施しています。Excelなどのスプレッドシートを開き、コピー&ペーストを繰り返し、各システムの仕様に合わせて文章を書き換え、必要な情報を付与していく。考えただけでも、その膨大な手間と時間が想像できるでしょう。

 そして当然ながら商品数は1つではなくM個あります。つまり、必要な作業数は「M × N」という掛け算になります。その必要な項目数の分だけ、入力項目が存在します。