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- データ駆動型経営が求める商品マスターの作り方
商品データはコストではなく“競争力”【第5回】
棚から選ばれるかどうかが商品データで決まる
この変化を一言で言えば「商品データの質が、AIシステムが自社商品を『棚から選んでくるかどうか』を決めるようになった」ということです。
リアル店舗では、棚に並べてもらえるかが勝負でした。商品が棚に置かれなければ、消費者の目に触れることはありません。ECや検索の世界では、棚の良い位置を取れるかどうかが勝負でした。検索結果の上位に表示されなければ、クリックされる確率は急激に下がります。SEOや広告出稿は、まさに“棚の位置取り”競争でした。
ところがAI時代には、棚そのものが消費者からは見えなくなります。代わりに、AIシステムが棚の中から1つを選び、理由をつけて消費者に差し出します。消費者はもう棚を眺めません。AIシステムが「持ってきてくれた1つの商品」を見るのです。
このとき、AIシステムが自社商品を棚から選び出すかは、商品データがAIシステムに、どんな情報を提供できるかにかかっています。商品を解釈できるだけの十分な意味情報がなければ、棚にあっても選ばれない。つまり「存在しないのと同じ」になります。
ここが、従来のコストセンター論との決定的な違いです。第4回までに説明してきたのは「整備にかかるコストをいかに下げるか」という視点です。しかしAI時代の論点は、その先にあります。整備された商品データそのものが、選ばれる確率を左右し、売り上げを生む資産になるのです。データ整備は、もはや“守り”の効率化ではなく、“攻め”の競争行為なのです。
これまで商品データは「正確である」ことが価値でした。型番が正しい、在庫数が合っている、価格が間違っていないなど、業務を滞りなく回すための正確性です。今後は、それらに加え「豊かである」ことが価値になります。その商品がどんな課題を解決し、どんな価値を持つのかを、AIシステムが解釈できるだけの意味を備えていなければなりません。正確なだけの商品データは、AIシステムの前では沈黙してしまいます。
コストか競争力かの—分岐点はすでに始まっている
筆者は年に数回、全米小売業協会(National Retail Federation)が開催する大型カンファレンス「NRF」や「Shoptalk」といった海外のリテールイベントに参加し、最前線の議論を見てきました。そこで近年、繰り返し語られているのが、まさにこの転換です。SEOに代わって、生成AI技術に正しく解釈されるためのデータ最適化をどう設計するかです。
先進的な小売り・ブランドは、すでにこれを経営アジェンダとして議論し始めています。日本企業の多くは、まだ“データ整備の壁”の前で立ち止まっています。しかし、その壁の向こう側では、ゲームのルールそのものが変わり始めています。商品データを「いつか片づけるべき面倒な業務」と捉えている企業と、「市場に参加するための条件」と捉え投資する企業では、これから数年で大きな差が開くと筆者は考えています。
AIシステムに選ばれる商品データの鍵になるのは「商品情報(スペック)だけでは足りない」という事実です。次回は、検索の世界とAIの世界で「商品情報」の意味がどう変わるのか。「スペックから文脈へ」という、より具体的な構造について説明します。
伴 大二郎(ばん・だいじろう)
Lazuli Chief Evangelist。小売業界において早くからCRMの重要性に着目し、一貫してデータ活用を軸とした戦略立案およびサービス開発に従事。2011年オプト入社後、マーケティングコンサルタントを経て、2015年よりマーケティング事業部長として事業拡大を牽引。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門などの立ち上げを通じ、デジタルマーケティングのコンサルティング組織を統括。
2021年よりヤプリのエグゼクティブスペシャリスト(専門役員)に就任し、モバイルアプリを活用した顧客体験設計およびCRM活用の高度化を推進。同年db-labを設立し代表社員として、データドリブンマーケティングに関するコンサルティングやアドバイザー業務を行うほか、顧客時間のChief CX Strategistとして、多様な企業の顧客戦略・顧客体験変革を支援。2026年1月より現職。
10年以上にわたり、海外カンファレンスへの参加や企業訪問を通じて小売り・リテール領域の最新動向を継続的に調査・研究。登壇・寄稿などを通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。著書に『モバイル時代のCRM ― スマホで顧客コミュニケーションはどう変わったか?』(Shoeisha Digital First)がある。
