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- データ駆動型経営が求める商品マスターの作り方
AIが求めているのは商品の「スペック」ではなく「文脈」【第6回】
「文脈」のための元データはすでに社内にある
ここで重要なのは「文脈データはスペックデータの延長線上にはない」ということです。スペックは、商品を観察すれば書けます。測って調べれば客観的に記述できます。
これに対し文脈は、その商品が「誰の、どんな課題に効くか」という商品と、その外側との関係を記述したものです。これは商品を眺めているだけでは書けません。顧客が「どんな悩みで、その商品にたどり着くのか」「どんな場面で使うのか」「競合と何が違うのか」など、市場や顧客への理解があって初めて言語化できる情報です。
従来の商品データ整備が“正確さ”を追ってきたのは、スペックが対象だったからです。スペックには正解があり、間違いがある。型番は合っているか、容量は正しいかなどです。しかし文脈には唯一の正解がありません。同じマットレスでも「腰痛の人向け」とも「在宅ワークで体がこる人向け」とも語れます。
どの文脈を、どれだけ豊かに商品情報に持たせるかが「どれだけ多くの場面でAIシステムに想起されるか」を決めます。第5回で述べた「正確であること」から「豊かであること」への価値の移行は、まさにこの、スペックから文脈への重心移動を指しています。
では、この文脈データは、どこにあるのでしょうか。幸い、その原材料の多くは企業の内外にすでに存在しています。顧客からの問い合わせやレビュー、口コミには、ユーザーが「どんな悩みで、この商品を選んだか」という文脈が生の言葉で詰まっています。コンタクトセンターの応対履歴、営業やコンシェルジュの接客知見、SNS(Social Networking Service)上の使われ方など、これらは全てスペックには現れない文脈の宝庫です。
先ほどAI開発企業がRedditの口コミを買い求めていると述べました。それと同じ価値を持つデータが自社の中にも眠っているのです。問題は、それらの文脈が商品データと結び付かないまま、バラバラに散らばっていることです。
近年は、社内外のレビューや問い合わせ、商品説明文を生成AIシステムに読み込ませ、課題や利用シーン、価値といった切り口で文脈を抽出・構造化し、商品データに付与するアプローチが現実的になってきました。AI時代のデータ整備は、スペックを整えるためだけでなく、文脈を持たせるために実施するのです。
文脈データの整備はブランド戦略の設計そのもの
ただし、文脈データは、ただAIシステムに任せて自動生成すれば良いというものではありません。自社の商品を「誰の、どんな課題に対して」位置づけるのかはブランド戦略そのものであり、人間が設計すべき部分です。AIシステムは文脈を抽出し量産できますが、どの文脈を選び、どう意味付けるかの判断までは肩代わりできません。そこにAI時代の人間の役割があります。
商品に文脈を持たせ、AIシステムに正しく解釈させる。これができたときに初めて、商品データは“市場との接点”になります。そのうえで、商品が持つ文脈と顧客自身の文脈を突き合わせることで「腰痛で悩む顧客」と「腰痛に効く商品」がデータ上で結び付くのです。
次回は、これまで分断されてきた商品データ(PDP:Product Data Platform)と顧客データ(CDP:Customer Data Platform)が結び付いたときに何が起きるのかを掘り下げます。
伴 大二郎(ばん・だいじろう)
Lazuli Chief Evangelist。小売業界において早くからCRMの重要性に着目し、一貫してデータ活用を軸とした戦略立案およびサービス開発に従事。2011年オプト入社後、マーケティングコンサルタントを経て、2015年よりマーケティング事業部長として事業拡大を牽引。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門などの立ち上げを通じ、デジタルマーケティングのコンサルティング組織を統括。
2021年よりヤプリのエグゼクティブスペシャリスト(専門役員)に就任し、モバイルアプリを活用した顧客体験設計およびCRM活用の高度化を推進。同年db-labを設立し代表社員として、データドリブンマーケティングに関するコンサルティングやアドバイザー業務を行うほか、顧客時間のChief CX Strategistとして、多様な企業の顧客戦略・顧客体験変革を支援。2026年1月より現職。
10年以上にわたり、海外カンファレンスへの参加や企業訪問を通じて小売り・リテール領域の最新動向を継続的に調査・研究。登壇・寄稿などを通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。著書に『モバイル時代のCRM ― スマホで顧客コミュニケーションはどう変わったか?』(Shoeisha Digital First)がある。
