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- データ駆動型経営が求める商品マスターの作り方
商品と顧客の両データが出会って初めて「誰に何を売るか」がつながる【第7回】

前回、商品データを「スペック」から「文脈」へと拡張することの意味を掘り下げました。しかし、これには続きがあります。商品側に文脈が宿れば、それを「顧客側の文脈」と結びつけられるのです。「腰痛に効く商品」と「腰痛で悩む顧客」がデータの上で出会う。今回は、これまで分断されてきた商品データと顧客データの接続が何を意味するのかを掘り下げます。
多くの企業ではこれまで、商品に関するデータと顧客に関するデータが別々の系統で発展してきました。商品側から見てみましょう。
業務最適によりPDPとCDPが別々に存在
商品データは1つのシステムに、まとまっているわけではなく、目的別に分散して蓄積されています。
例えば、基幹業務を回すERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)には品番・在庫・価格といった業務データが、PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)には商品の企画・設計・仕様データが、PIM(Product Information Management:商品情報管理)にはEC(Electric Commerce:電子商取引)や店頭で使う説明文や多言語情報が、DAM(Digital Asset Management:デジタル資産管理)には商品画像や動画などのコンテンツが、といった具合です。
本連載の第1回〜第4回で「サイロ化」として繰り返し指摘してきた状況は、突き詰めれば、各システムがそれぞれの部門・業務に最適化されて発展してきた結果でもあります。
これらの業務データを横断的に取りまとめ、マーケティングシステムやAI(人工知能)技術が解釈できる形に整えるのがPDP(Product Data Platform:商品データ基盤)構想です。ERPやPLM、PIM、DAMが「モノを正しく管理する」ためのシステムだとすれば、PDPは「モノを市場につなぐ」ためのシステムだと言えます。
一方の顧客側にも同じ構造があります。顧客との接点では、POS(Point of Sales:販売時点情報)、ECプラットフォーム、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)、MA(Marketing Automation)など、それぞれの目的に応じた個別システムが稼働し、購買・行動・属性のデータを蓄積しています。CDP(Customer Data Platform:顧客データ基盤)は、これらを統合し顧客理解と施策活用に耐える形に整えるための仕組みです。
つまり、モノを扱う側にも、ヒトを扱う側にも「多数の業務システム → 統合基盤 → 活用」という共通の構造があります。しかし、目的も担当部署も使うツールも違うため、両者は同じ会社の中にあっても、なかなか出会ってきませんでした。モノを整える営みとヒトを理解する営みは、それぞれの現場で別々に進化してきたのです。
「属性で当てる」パーソナライズは限界に
この分断のなかで多くの企業は「顧客理解に基づく商品提案」を顧客データだけを頼りに実現しようとしてきました。いわゆるパーソナライズです。その典型が、属性ベースのセグメンテーションです。
例えば「30代・女性・首都圏在住・年収600万円台」といった属性に応じて、お薦め商品を出し分ける。あるいは購買履歴を使い「この商品を買った人には、こういう商品も」と提案する。これらは長らく、CRMやマーケティングオートメーションの標準的な手法でした。
もう1つの代表的な手法が、ECサイトで「あなたへのお薦め」を表示するレコメンデーションエンジン、なかでも協調フィルタリングです。「あなたと似た行動をしている他のユーザーは、この商品も買っています」というロジックで、行動履歴のパターンから次の商品を推測します。米Amazon.comをはじめとする多くのEC事業者が、この仕組みで購買を後押ししてきました。
しかし、これらの方法にはいずれも構造的な限界があります。属性は、その人が「どんな悩みを抱えているか」までは教えてくれません。同じ30代女性でも、腰痛に悩む人もいれば、肌荒れに悩む人も、育児の時短に悩む人もいます。属性が同じでも、抱えている文脈は全く違う。にもかかわらず同じお薦め商品が提示されてしまうのです。
協調フィルタリングも同様です。「マットレスを買った人が、次に枕を買った」という行動パターンからは、その人が「なぜマットレスを買ったのか。腰痛のためか、引っ越しのためか、家族用にか」は分かりません。買った理由、つまり顧客の文脈が抜け落ちたまま“同じ行動をした他人”との比較で次の一手が決まってしまうのです。
ここには共通する根本的な性質があります。属性ベースのパーソナライズも、協調フィルタリングも、既に起きた“結果”を材料に次を推測する手法だということです。買った、見た、クリックしたという過去の行動記録を積み重ね、統計的に「この属性・この行動パターンの人が好みそうなもの」を提示する。その瞬間に顧客が何を必要としているかではなく、似た人が過去にどう振る舞ったかを見ているのです。
だからこそ、多くの企業がパーソナライズやレコメンドに投資しても、顧客からは「なぜこれが表示されるのか分からない」「自分のことを分かっていない」という感覚を持たれてきました。行動としては当たっていても、今の自分の状況とは噛み合わないからです。
これに対し、文脈で顧客を理解するというアプローチは「プロセス」に向き合います。顧客が今まさに「何に悩み、何を求めているのか」という、買うという行動になる前の“頭の中の言葉”を受け止める。結果からの逆算ではなく、プロセスの真ん中に立ち会うことを目指す発想です。結果を見ている手法は、顧客の内側で起きているプロセスに原理的に届きにくいのです。