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AIが求めているのは商品の「スペック」ではなく「文脈」【第6回】

伴 大二郎(Lazuli Chief Evangelist)
2026年8月10日

前回、AI(人工知能)時代になり自社商品が「棚から選ばれるかどうか」は商品データの“質”で決まると指摘しました。ではAIシステムに選ばれる商品データとは具体的に、どんな情報を備えたものなのでしょうか。今回は、これまでの検索の世界とAIシステムの世界で「商品情報」に求められるものがどう変わるのか、その構造を掘り下げます。

 AI(人工知能)時代の商品情報のあり方について、その結論から言えば「検索はスペックを照合し、AIは文脈を理解する」です。この違いを理解しないままに従来通りのデータ整備を続けても、AI時代には商品は選ばれません。

検索エンジンは商品の「スペック」を見ている

 これまでの商品データの中心は「スペック」でした。カテゴリーや、メーカー、型番、サイズ、容量、価格、素材など商品そのものが客観的に「何であるか」を記述する情報です。第3回と第4回で触れた表記揺れの統一やカテゴリー分類、タグ付けといった作業も、突き詰めれば、このスペックを正確に漏れなく整えるための営みでした。

 検索エンジンは、このスペックと、消費者が入力したキーワードを照合します。「マットレス シングル 高反発」と入力すれば、そのキーワードに合致するスペックを持つ商品が表示される。だからこそ売り手は、検索されそうなキーワードを商品名や説明文、タグに詰め込んできました。検索されるキーワードを予測し、それを商品データに“仕込む”。これがSEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)の基本動作です。

 しかし、ここには見落とされがちな前提があります。消費者が、自分がほしいものを「商品の言葉」に翻訳できていなければ、検索は成立しないということです。「高反発マットレス」と検索できる人は、すでに「自分には高反発が合う」と知っている人だけです。

 ところが消費者の頭の中にあるのは、本来こういう言葉です。「最近、腰が痛くて朝起きるのがつらい」「横向きで寝ると肩が圧迫される」。これは商品のスペックではありません。消費者が抱える課題であり、置かれている状況であり、求めている価値です。これを本連載では「文脈」と呼びます。

 検索の時代、この文脈を商品の言葉(スペック)に翻訳する作業は、消費者自身がやっていました。腰痛という悩みを「高反発」「腰痛対策」というキーワードに自力で変換し、検索窓に入力してくれていたのです。

 この翻訳をAIシステムが肩代わりします。「腰が痛くて朝つらい」と伝えれば「それなら体圧分散性の高い、ある程度の硬さのあるマットレスが合う可能性が高い」と解釈し、該当する商品を選んでくる。消費者はもう、自分の悩みを商品を示す言葉に翻訳する必要がないのです。

AIが見る「文脈」は商品の利用シーンや課題解決点

 この翻訳をAIシステムが正しく実行するためには、商品データに「文脈」が書き込まれている必要があります。スペックとして「高反発・厚さ10センチメートル」と書いてあるだけでは、AIシステムは「腰痛の人に向いている」と結びつけられないかもしれません。「腰や肩への負担を軽減」「横向き寝の方にも」「朝のだるさが気になる方へ」など、課題や利用シーンと商品を結ぶ情報があって初めて、その商品を見つけられます。

 このことは、AI技術を開発する企業の動きが裏づけています。例えば「ChatGPT」を開発する米OpenAIや検索大手の米Googleは、掲示板サービスを提供する米Redditとコンテンツ利用契約を結んでいます。報道によれば、年間契約額は、OpenAIが約7000万ドル、Googleは6000万ドルです。両者がほしかったのはRedditが蓄積している一般ユーザーの「これを買って失敗した」「この悩みにはこれが効いた」「こういう使い方をしたら良かった」といった体験や悩み、失敗、解決策の“生の声”なのです。

 なぜ、世界中の企業がしのぎを削って公式な商品情報を発信しているにもかかわらず、雑多な口コミにそれほどの価値がつくのでしょうか。それは、人に何かを薦めるうえで本当に効くのは、メーカーが用意した完璧なスペック表ではなく、実際に使った人が「何に困り、どう解決したか」という文脈だからです。

 AIシステムは、信頼できる人がしているように、生きた体験から「この悩みには、この商品が合う」といったことを学んでいます。すなわち、自社の商品データに、そうした文脈が含まれていなければ、その商品をAIシステム「誰の、どんな課題に効くか」に結び付けられず、選びようがないのです。

 具体的には、例えば食品なら、スペックは「内容量300グラム・調理時間レンジ5分」で、文脈は「平日の帰りが遅い共働き世帯の、もう一品ほしい夜に」です。化粧品なら、スペックは「ナイアシンアミド配合・30ミリリットル」ですが、文脈は「毛穴の開きが気になり始めた30代の、夜のケアに」などです。

 スペックは「それが何か」を語り、文脈は「それが誰の、どんな場面の、何を解決するか」を語ります。AIシステムが見ているのは後者です。