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AI時代に選ばれる企業は「商品データ」で対話する【第8回】

伴 大二郎(Lazuli Chief Evangelist)
2026年10月5日

 この転換の中では、企業が向き合う競争ルールも変わります。「サイトに来てもらう」のではなく「生活の中でAIに想起される」ためには、AIシステムが自社の商品を「文脈」として保持できているかどうかで決まります。本連載で繰り返してきた指摘がここに帰着するのです。

 ここで、日本企業に強くお伝えしたいことがあります。UCPのチェックアウトは、まず米国で稼働し、カナダ、オーストラリアへ拡大し、その後に英国へ広がる予定です。日本への展開時期は2026年8月時点では明示されていません。そのため多くの企業が「日本に来たときに考えればよい」と受け止めるかもしれません。

 しかし、それでは遅いのです。理由は明確です。日本にUCPが開放されるとき、Google(AIモード・Gemini・YouTube・Gmail)とAmazonは接続された巨大なエコシステムが“完成品”として上陸してくるからです。

 米国で1〜2年をかけて磨かれたUCPに、Amazonも深く組み込まれ、その使い方に消費者が慣れ切った状態で、日本市場に一気に流れ込んできます。そのタイミングで自社の商品データが未整備なら、Googleの棚にも、Amazonの棚にも、AIエージェントの棚にも商品は並びません。日本の消費者が、そのエコシステムを使い始めた瞬間から選択肢の外に置かれてしまうのです。

 これは大げさな話ではありません。SEO(Search Engine Optimization)やeコマースがそうであったように、新しい商業インフラは常に「準備ができている企業から順に恩恵を受ける」構造で普及します。UCPが上陸してから慌てて商品データを整備したとしても、その頃には競合の商品データは既にAIシステムが「文脈」として学習済みで、追い付くのに数年を要することになります。

日本企業が今日から始められる3つのステップ

 こうした状況を回避するために、企業は何から始めればよいでしょうか。実務的な3つのステップを提示します。

ステップ1:自社の商品データが「AIに解釈できる形」になっているかを点検する

 品番・スペック・カテゴリーといった業務項目は整っていても、その商品が「誰の、どんな課題に効くか」という文脈情報は、ほとんどの企業で欠落しています。ECの商品説明文、店頭POP、営業資料など既存の文章から、文脈的な記述を洗い出し、それが商品データとして体系的に管理されているかを確認するところから始まります。

ステップ2:顧客の文脈が眠っている場所を可視化する

 コンタクトセンターのログ、レビュー、店頭接客記録、アプリ内検索キーワード、SNS上の言及などのなかに、顧客が「今、何に困っているか」を自分の言葉で語ったデータが必ず存在します。まずは、それらがどこにあり、誰が管理しているかを組織横断で把握することが第一歩になります。

ステップ3:PDPとCDPをつなげる責任者を決める

 これまでモノを扱う側とヒトを扱う側は、別々の部門・別々のシステム・別々のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)で動いてきました。この分断を超えるには、両者を横断して意思決定できる立場の人がAIシステムに責任を持つ必要があります。CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)やCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)、あるいはCX(Customer Experience:顧客体験)担当役員のような人です。これは、技術の問題である前に、組織設計の問題です。

 これら3つは、いずれも今すぐ着手できて、しかも段階的にしか進みません。だからこそ、始めるタイミングが早いほど、後から追いつく企業との差が広がります。

商品データは「業務データ」ではなく「市場との接点」

 最後にお伝えしたい視点があります。商品データを「業務データ」として扱ってきたのが20世紀の企業でした。棚卸しをし、在庫を管理し、価格を統一する。“モノを正しく回す”ためのデータです。

 この商品データを「マーケティングデータ」として扱い始めたのが21世紀初頭の企業でした。ECサイトに載せ、SEOで最適化し、レコメンドエンジンで動かす。“売る”ためのデータです。

 そしてAIの時代に問われているのは、商品データを「市場そのものとの接点」として扱えるかどうかです。AI技術を介して、商品の文脈と顧客の文脈が出会い、買い物という行為が生活の中に入り込む時代、自社商品を「生活の文脈」に接続できるかどうか。そこに現れる商品データは、もはや社内の管理対象ではなく、市場に対して自社が何を提供できるかを語る「宣言」に近いものになります。

 この視点に立ったとき、商品データを整備する営みは、経理でも情報システムでもなく、経営そのものの仕事になります。「うちの商品は、誰の、どんな課題に、どう効くのか」。この問いに「文脈」として答えられる企業だけが、AI時代の市場に参加できるのです。

 商品データは業務データではありません。市場と対話するためのインフラです。この認識を持てるかどうかが、これからの10年の企業の分岐点になると、筆者は考えています。本連載を通じて描いてきた「商品データの再定義」が、皆さまの実務のなかで、何か1つでも次のアクションのきっかけになれば幸いです。

伴 大二郎(ばん・だいじろう)

Lazuli Chief Evangelist。小売業界において早くからCRMの重要性に着目し、一貫してデータ活用を軸とした戦略立案およびサービス開発に従事。2011年オプト入社後、マーケティングコンサルタントを経て、2015年よりマーケティング事業部長として事業拡大を牽引。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門などの立ち上げを通じ、デジタルマーケティングのコンサルティング組織を統括。

2021年よりヤプリのエグゼクティブスペシャリスト(専門役員)に就任し、モバイルアプリを活用した顧客体験設計およびCRM活用の高度化を推進。同年db-labを設立し代表社員として、データドリブンマーケティングに関するコンサルティングやアドバイザー業務を行うほか、顧客時間のChief CX Strategistとして、多様な企業の顧客戦略・顧客体験変革を支援。2026年1月より現職。

10年以上にわたり、海外カンファレンスへの参加や企業訪問を通じて小売り・リテール領域の最新動向を継続的に調査・研究。登壇・寄稿などを通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。著書に『モバイル時代のCRM ― スマホで顧客コミュニケーションはどう変わったか?』(Shoeisha Digital First)がある。