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AI時代に選ばれる企業は「商品データ」で対話する【第8回】

伴 大二郎(Lazuli Chief Evangelist)
2026年10月5日

本連載の前半では「商品データが現場で使えない構造」を解き明かし、後半では「その商品データがAI時代には、むしろ競争力の源泉になる」という転換を説明してきました。今回は、本連載中にも動き続けている現実世界に目を向け、AI(人工知能)時代に「選ばれる」商品と、それを可能にする企業の条件を整理します。

 本連載の第5回以降、筆者が繰り返してきた主張は極めてシンプルであり、これが連載後半の骨格です。

「AI(人工知能)時代に商品が選ばれるためには、AI技術が、その商品を“解釈できる”必要がある。その解釈のためには、スペックだけでは足りず「文脈」が要る。文脈は商品側にも顧客側にも必要で、両者が揃って初めて意味のマッチングが成立する」

 これは「AI対策」という小手先の話ではありません。市場との接し方そのものが、検索とキーワードの時代から、対話と文脈の時代へと構造転換しているという話です。企業に問われているのは、この構造転換に自社の商品と顧客との関係を適応させられるかどうかです。

AIコマースを巡る地殻変動が加速

 本連載中にも、AIコマースを巡る地殻変動は加速し続けました。少しだけ2026年初め頃の動きを振り返ってみます。

 2026年1月、世界最大級の小売業界イベント「NRF Retail's Big Show」で米Googleが「Universal Commerce Protocol(UCP)」を発表しました。AIエージェントが小売り各社の在庫から価格、決済までを横断して扱うための業界標準規格です。創設メンバーにはカナダのShopifyや米Etsy、米Target、米Wayfairなど大手が名を連ねましたが「Amazon.comが参加していない」ことが注目されました。

 そのAmazonは同年4月、米Meta、米Microsoft、米Salesforce、米StripeといったIT大手ともにUCPの技術評議会(Tech Council)に参加します。自社の商圏をAIエージェントに開くことを警戒していた巨人でさえ、AI技術が商品を選ぶ世界に「乗らない」という選択肢を持てなくなったということです。

 同じ時期、AI技術開発の米OpenAIも大きく舵を切りました。2026年1月に自社のAIチャットサービス「ChatGPT」での広告表示テストを発表。翌2月には米国で広告配信を始めました。

 一方で、注目されていた「ChatGPT内での直接決済(Instant Checkout)」は、同年3月時点で戦略転換を余儀なくされます。米Walmartが試験的にInstant Checkoutで商品を提供したところ、コンバージョン率が自社サイトの3分の1にとどまり、Walmart側は「満足のいく体験ではなかった」と評しました。

 つまり消費者は「AIエージェントに相談する場所」と「実際に買う場所」を今のところ別のものとして扱っているのです。結果、OpenAIは決済まで完結させるのではなく、商品発見と広告収益に軸足を移す方針に転じています。

 2026年5月にはGoogleが2つの大きな発表を行いました。1つは「Conversational Attributes」です。商品データ管理ツール「Merchant Center」に6つの新しい商品属性フィールドを追加し、AIモードや「Gemini」上での対話的な検索に必要な情報を、小売り側が構造化して提供できるようにしました。

 象徴的なのは、商品属性フィールドの1つが「Q&A形式」であることです。「これは防水ですか」「どんな場面で使いますか」など、買い手が自然に問いかける質問と、それに対する答えを商品データそのものに埋め込みます。まさに本連載で「文脈データ」と呼んできたものが、Googleの標準フィールドとして登録可能になったのです。

 もう1つが「Universal Cart」です。「Search」「Gemini」「YouTube」「Gmail」などGoogleが提供する全ての接点で見つけた商品を、1つのカートに集約できる仕組みです。消費者が動画を見ている間も、メールを読んでいる間も、カートが裏側で価格を追跡し在庫を確認し、より良いディールを探し続けます。このカートには、Nike、Sephora、Target、Ulta Beauty、Walmart、Wayfair、そしてShopify上のFentyやSteve Maddenといったブランドが順次接続しています。

 リアルな店舗も動いています。2026年1月、Amazonは高級スーパー「Whole Foods」に新型の「Dash Cart」を展開すると発表しました。買い物カゴ自体がAIシステムとセンサーを持ち、購入体験をシームレスに再設計する試みです。デジタルとフィジカルの両側から「AIが選び、AIが接続する」体験のインフラが同時に立ち上がりつつあります。

「買い物に行く」時代から「買い物が生活に入り込む」時代へ

 これらの動きが示していることをまとめれば次のようになります。

 これまで私たちは「買い物をしに行く」存在でした。ECサイトを訪れ、検索窓にキーワードを入れ、商品を比較し、カートに入れ、決済ボタンを押す。つまり買い物とは、意識して能動的に行うイベントでした。

 しかし、Universal Cartが動き、UCPで小売り各社が接続され、Conversational AttributesでAI技術が商品を理解し、Dash Cartが店内でAIシステムとつながれば「買い物」という行為が生活の中に入り込んでくる世界がやって来ます。

 動画を見ていて気になった商品も、メールで届いたお薦めも、Geminiとの会話の中で見つけた候補も、その場でカートに入れておける。カートに入れた瞬間からAIシステムが裏側で動き出し、複数の企業をまたいで値下げや在庫復活を追い掛け、支払い方法の特典やポイントまでを含めて消費者に寄り添った買い物を支援する。消費者が「買い物モード」に切り替えなくても、生活のあらゆる瞬間が購買の入口になっていく。